日本医師会の今村聡副会長が6月3日付けで中央社会保険医療協議会委員を退任した。この今村氏、委員としての胸中をポロリと漏らしたことがある。2020年度診療報酬改定の議論が佳境に入った2019年11月末、都内で開かれた民間シンポジウムの壇上での発言だった。【堤実篤】
「中医協の議論について、メディアはどの委員がどんな発言をしたといろいろ書いてくれるのだが……」
そう切り出した今村氏は、委員=役者論に言及した。
「中医協の委員は厚労省が作成したシナリオの上で演じさせられているようだ。厚労省の後ろには財務省の影が見えて、その後ろには政権の影が見えるが、診療報酬の決定には政権の力がとくに大きく働いている」
中医協の議論は事務局作成の論点への賛否が交錯しても、おおむね予定調和の結論に着地することから、しばしばプロレスに例えられる。その虚しさを告白するような発言だった。
だが、予定調和が破られる場面もある。20年1月31日の中医協総会で、幸野庄司委員(健保連理事)が医療用保湿剤の処方制限を附帯意見に記載するように求めた途端、松本吉郎委員(日医常任理事)が対決モードに入った。
健保連がレセプトから抽出したデータを取り上げて、松本氏は「中医協に提出すれば、あのデータがいかに杜撰なものかが明らかにされますが、それでもいいのですか?」「あなたはいつもそうですよ!」「健保連のデータを中医協に提出することには反対します!」などと、プロレスでいうシュートマッチを仕掛けた。
松本氏に対して幸野氏は応戦せず、受けに回ったため、総会は紛糾に至らなかった。
プロレスもときに予定調和から逸脱して、全く噛み合わない不穏試合や、大怪我や死亡事故に至る試合もある。中医協はエンターテインメント色の強い“純プロレス”よりも、むしろUWFインターナショナルのように“格闘技色の強いプロレス”かもしれない。