厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長は7月10日、「地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方」をテーマにした中医協総会で、診療情報の共有に関連して電子カルテの標準規格について問われ、「かなりのものは作られている」と述べた。これに対し、「つなぐことはできるようになってきているが、非常にお金がかかる」との声もあった。【新井裕充】
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厚労省は同日の総会に、「地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方」と題する118ページの資料を提示。その中で「地域における情報共有・連携」を論点に挙げたものの、「今後、ネットワークの具体的な活用状況やその効果等を踏まえて検討してはどうか」との記載にとどまった。
地域における情報共有・連携について【論点】
○ 患者の在宅復帰や、医療機関間の連携をさらに進める観点から、病床機能連携にかかる評価の在り方について、平成30年度診療報酬改定の対応を踏まえ、どのように考えるか。
○ 医療情報の標準化や、地域医療情報連携ネットワークの構築については、基盤整備のための基金が創設されたところ。医療機関間における診療情報の電子的な送受にかかる評価の在り方については、今後、ネットワークの具体的な活用状況やその効果等を踏まえて検討してはどうか。
○ 医療機関と薬局や訪問看護ステーションの連携について、医療現場の取組状況や、平成30年度診療報酬改定の対応を踏まえ、どのように考えるか。
質疑で、委員から「目指すべき標準化を頂上だとすると、事務局(保険局医療課)としては、今、何合目ぐらいまで来ているのか」との質問があった。
森光課長は「『何合目か』というところは少し、私どもも少し厳しいところがある」と苦笑しながら、「標準規格というのは平成20年から、かなりのものは作られている」と回答。「変換器を使うような形で、地域における医療情報の共有は進んでいる」との認識を示した。
これに対し、病院団体の委員から「つなぐことはできるが非常にお金がかかる。互換性がないということが一番の問題で、もっと国として電子カルテの標準的なモデルを示して、これをベンダーさんにつくっていただくような方向に持っていかないと互換性が出てこない」との意見があった。
質疑の模様は、以下のとおり。
[松本吉郎委員(日本医師会常任理事)]
(前略) 87ページの「地域における情報共有と連携」の論点の所ですけども、現状の電子カルテには、メーカーや製品ごとの互換性がなく、リプレイス時のコストが問題になっております。
医療機関同士が情報交換するための国の標準規格はありますけれども、診療所向けの電子カルテでは、標準規格による出力に対応できていないものが大半です。
診療スタイルもさまざまに異なる医療機関のカルテに書かれた全ての情報項目が規格で網羅されているわけではありません。
指示、実施予定情報や患者状態の情報、検査の解釈などは記載するかどうか、医療従事者任せであって、使われている語句も標準化されてはおりません。 介護分野に至っては、情報交換の標準規格すら整備されていない状況があります。
医療分野におけるICT化支援ということで、オンライン資格確認や電子カルテのシステム導入につきましては、「医療情報化支援基金」が創設され、10月に施行されることは一定の評価をしておりますけども、今、述べましたような根本的な問題解決への対応も必要かというふうに思います。
(中略)
[宮近清文委員(経団連社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)]
(前略) 電子カルテに関連してですけれども、資料の86ページ(医科・歯科間での診療情報の共有)ですけれども、
情報の標準規格化は医療機関のデータの現状を把握していく上で必須だと思いますし、大変重要なことだと思うんですけれども、
64ページで平成30年度までの電子カルテの標準化の取り組みが紹介されているわけですけれども、
先ほど松本先生もおっしゃいましたけれども、非常に遅れている標準化について、あるべき標準化、目指すべき標準化からすると、それを頂上だとすると、事務局(保険局医療課)としては、今、何合目ぐらいまで来てるのか。ざっくりとした話なんですけれども。
その目標に届いてないとすれば、その目標に行き着くまでにどれくらいの期間がかかって、その障害となるところはどういうところかということを少し教えていただければと思います。以上です。
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[田辺国昭会長(東大大学院法学政治学研究科教授)]
では医療課長、お願いいたします。
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[厚労省保険局医療課・森光敬子課長]
(前略) 電子カルテのお話でございます。ちょっと、「何合目か」というところは少し、私どもも少し厳しいところがあるんですけれども、
電子カルテの標準化ということで、標準規格というのは過去から、平成20年から、それぞれ作られてきております。かなりのものは作られております。
今、できるのは、いわゆる検査値ですとか、そういうものについて、例えば、やりとりするというようなことに関しての標準化というのは、ある程度できるかと思います。
ただ、先ほど今村先生からおっしゃったように、プラス医師の診療の内容に踏み込んだようなものというものに関しては、標準化というのはできていないというふうに思います。
ただ、この、「共有化する」「情報を共有する」という視点で見たときにおいては、この標準化の意味では、まさにこのコードなりがちゃんと組み込まれた電子カルテを病院なり診療所で採用していただくということがないと、ある意味、情報の共有化というのはなかなか難しいという状況だろうというふうに思ってます。
そういう意味では、多くの病院が共通化した標準的な規格を盛り込んだ電子カルテを、まだ電子カルテの導入率というのは、先ほど40何%というふうにありましたけれども、まだできていないということでございますので、
正直申し上げて、電子カルテの標準化のための基金、導入するときに標準化されたものが組み込まれた電子カルテを、どちらにしてもその支援、基金が大きく役割を担っていただければなというふうに思っています。
ただ、幾つかの地域の医療情報共有ネットワークにおいては、例えば同じようなタイプの、そこの部分に必要な部分の規格については統一した形で入れ込むとか、そういう工夫をしながら、
また、それから変換器を使うというような形で、地域における医療情報の共有というのは進んでるということで、それとはまた別ということで考えていただければというふうに思ってます。
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[田辺国昭会長(東大大学院法学政治学研究科教授)]
では、猪口委員、お願いいたします。
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[猪口雄二委員(全日本病院協会会長)]
2点申し上げたいと思うんですが、今の電子カルテの件ですけども、結局つなぐことはできるように今、なってきているんですが、それにも非常にお金がかかります。
それから互換性がないということが一番の問題で、もっとですね、国として、やっぱり電子カルテの標準的なモデルを示して、これをベンダーさんにつくっていただくような方向に持っていかないとですね、互換性が出てこないし、
またそういうものができれば、今、クラウド型というのはもう出てますから、クラウドで統一したようなモデルをつくっていくと、どんどんそれが広がるわけですね。
それで、互換性も出てつながっていきますので、ぜひここは国が主導してですね、やっていけるような方向でお願いしたいと思います。
(後略)