地域医療構想、「診療報酬で誘導するのは無理がある」 日本医師会の城守氏

20190710中医協総会

 日本医師会常任理事の城守国斗氏は7月10日、次期改定に向けて「地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方」をテーマにした中医協総会で地域医療構想との関係に言及し、「診療報酬で誘導するというような考え方というのは、医療の提供体制の様態がさまざまであるということを考えると、これはもう無理があるだろうということは共有していただきたい」と述べた。【新井裕充】

 厚労省は同日の総会に「地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方について」と題する118ページの資料を示した。説明の冒頭で厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、「本日は入院医療、病院の機能分化とか、そういう視点でのご議論ということで資料を整理させていただいた」と紹介した上で、「医療機関間の機能分化・連携を進めやすくするような評価の在り方」などを論点に挙げた。

 質疑では、支払側の委員から「場合によっては診療報酬で何ができるかということも考えて検討をしていくことも重要ではないか」との意見があった。一方、城守委員はこれに反対の立場を表した。

 詳しくは以下のとおり。

[吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)]
 (前略) 地域に合った地域包括ケアシステムの構築、そのための医療機能の分化・連携、医療介護連携、これは待ったなしの課題であることは皆さまご承知のところでございますので、

 やはり、そうした状況の中では、診療報酬上の対応によって、地域医療構想の取り組みに寄り添い、また後押ししていくということが非常に重要な観点ではないかというふうに考えております。
.
[田辺国昭会長(東大大学院法学政治学研究科教授)]
 ほか、いかがでございましょう。では染谷委員、お願いいたします。
.
[染谷絹代委員(静岡県島田市長)]
 (前略) 往診をしてくださるお医者さんが極端に少なくなって、そして24時間地域包括ケアシステムで先生からの指示書を持って24時間、在宅に出向く、こういった保健師や看護師を、特定ナースを養成して現場で当たっているわけですけれども、この往診していただけるお医者さまへの配慮ということを1つ課題であります。

 (中略)

 無医村であればいろいろな国からの援助等もあって、遠隔、ICTを使った遠隔診療とかいろいろできるんですが、そこまではいかないんだけれども、いることはいるんだけれども、極端に医師の数が減ってきている中山間地域の医療の現実、これも大変な課題と思っています。

 (中略)

 ドローンで患者のところに薬を届けるというようなことができるのかどうか。(中略) しかし、今は手渡しでないとできない。さまざまなですね、地域の課題というものを抱えております。

 このような地域の現実を踏まえて、地域医療構想の理念に沿ったですね、診療報酬の見直しをぜひともお願いしたいというのが地域の現状でございます。
.
[田辺国昭会長(東大大学院法学政治学研究科教授)]
 ありがとうございました。では今村委員、お願いいたします。
.
[今村聡委員(日本医師会副会長)]
 ただいま染谷委員からご指摘いただいた、開業医やかかりつけ医の地域における、いわゆる本当に不足というかですね、高齢化してきて、だんだんだんだん地域を守ってくれる開業医がいなくなっていくという現状は認識、本当に理解をしております。

 そのために、医師会としてもですね、さまざまな施策っていうことを国にお願いしていまして。

 (中略)

 いわゆる患者さんが急変したことによる往診ということに対する評価っていうものが、ずっと長い間変わってきておりませんので、そのへんの見直しっていうことはあってもいいのかなというふうに思っております。

 なんか私がこれを言うのも変なんですけど、そういうことを、本当に地方の医療を守っていくためにかかりつけ医が重要だというのはまさしく松本委員もおっしゃったし、私どももそのように思っておりますので、そこはなんか診療報酬の後押しができればありがたいなというふうに思ってます。

 (中略)

[平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)]
 (前略) 限られた医療資源をどういうふうに、提供体制をどう構築をしていくかというのが大変大きな課題でありますが、

 これも以前に言いましたけれども、その1つとしての「地域医療構想の実現」というのが極めて重要だというふうに思っているところであります。

 今回、骨太の方針においても、この地域医療構想に関して、去年までは公立・公的病院の在り方について、しっかり検討しなさいという話にとどまっていたわけでありましたけれども、

 今年の骨太方針については民間企業も含めて総合的に検討していくという、いくべきだというふうな明記がされておりまして、去年より大幅に変わってきたのかなと。

 やはり、政府としても相当な危機感を持って、この地域医療構想がなかなか進んでいないということに関しての危機感が表れているのではないかなというふうに思っているところであります。

【経済財政運営と改革の基本方針2019(6月21日閣議決定)P60~61】
(ⅱ)医療提供体制の効率化
 2040年に向けて人材不足等の新たな課題に対応するため、地域医療構想の実現に向けた取組、医師偏在対策、医療従事者の働き方改革を三位一体で推進し、総合的な医療提供体制改革を実施する。
 地域医療構想の実現に向け、全ての公立・公的医療機関等に係る具体的対応方針について、診療実績データの分析を行い、具体的対応方針の内容が、民間医療機関では担えない機能に重点化され、2025年において達成すべき医療機能の再編、病床数等の適正化に沿ったものとなるよう、重点対象区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援を行うとともに、適切な基準を新たに設定した上で原則として2019年度中に対応方針の見直しを求める。民間医療機関についても、2025年における地域医療構想の実現に沿ったものとなるよう対応方針の策定を改めて求めるとともに、地域医療構想調整会議における議論を促す。こうした取組によっても病床の機能分化・連携が進まない場合には、2020年度に実効性のある新たな都道府県知事の権限の在り方について検討し、できる限り早期に所要の措置を講ずる。地域医療介護総合確保基金の配分(基金創設前から存在している事業も含む)における大幅なメリハリ付けの仕組みや国が主導する実効的なPDCAサイクルを構築するとともに、成果の検証等を踏まえ、真に地域医療構想の実現に資するものとする観点から必要な場合には、消費税財源を活用した病床のダウンサイジング支援の追加的方策を講ずる。病床の転換や介護医療院への移行等が着実に進むよう、地域医療介護総合確保基金や急性期病床や療養病床に係る入院基本料の見直しによる病床再編の効果などこれまでの推進方策の効果・コストの検証を行い、必要な対応を検討する。質が高く効率的な救急医療提供体制の構築のため、救急医療のデータ連携体制の構築、救急救命士の資質向上・活用に向けた環境整備に関し検討を行う。
 諸外国と比べて高い水準にとどまる入院日数の縮小を目指す。特に精神病床については、認知症である者を含めその入院患者等が地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築など基盤整備への支援等を講ずる。
 病院と診療所の機能分化・連携等を推進しつつ、かかりつけ機能の在り方を踏まえながら、かかりつけ医・かかりつけ歯科医・かかりつけ薬剤師の普及を進めるとともに、医療機関へのかかり方について行政・保険者等が連携し啓発を行う。高額医療機器の効率的な配置に係る方針を都道府県の医療計画において盛り込むとともに、配置状況の地域差縮減に向けて共同利用率の向上等を図る。(後略)

 そういった意味で、2025年に向けての取り組みの中で、この地域医療構想だけじゃなくて、医師の働き方改革があり、そして医師の偏在対策ということが加えられている中で、(総会の資料)43ページにある、この医療施設の適正配置の実現から医師の働き方改革、医師の偏在対策、これは三位一体で推進をしていくんだなというのが明記がされております。

 今後これが大きなポイントになるというふうに思いますけども、その場合、診療報酬で何ができるかというと、ちょっとなかなかこの状況では見えてきませんけれども、場合によってはその診療報酬で何ができるかということも考えて検討をしていくというふうなことも重要ではないかなというふうに思っているところであります。

 いずれにしましても、地域医療構想、この間、私のほうから、別の審議会も含めて、公立、公的医療機関の在り方に偏ったような地域医療構想の進め方って、これは問題ではないかということを何回もくり返し指摘をしてまいりました。

 その結果として、全体として地域医療構想がそんなに進んでいないという危機感が出てきて、こういうふうな状況になったのかなというふうに思います。

 それは当たり前でありまして、地域によっては公立、公的の医療機関の病床数が2割ぐらいしかない地域もいっぱいありますので、そんな所だけいじったとしても、地域医療構想には何の影響もないというのはもう明らかでありますので、しっかりと、この地域医療構想が、公立、公的はもちろんでありますけれども、民間医療機関も含めた地域全体の医療提供体制がどうなっていくか、先ほどの人口動態も含めて今後どうなっていくのかなというのが、真摯に話し合えるような対応というのが、これは強く求められているんじゃないかなというふうに思います。

 (中略)

[城守国斗委員(日本医師会常任理事)]
 ご要望に当たりますけども、今、さまざまなお話が出てたようにですね、日本の地域医療の提供体制というのは、その地域によってさまざまであるというのがスライドの前半の部分に、かなり大きく示されてきたとおりでございまして、

 こういう状況においてですね、現在、進められようとしている地域医療構想、まあ、先ほどから、あまり進んでいないというかたちのお話もございましたが、決してその地域では進んでないわけではなくてですね、その地域の実情に応じた形で緩やかに変革をしていってると。

 医療の提供体制というのは激変はできませんので、そういう意味では、なかなかこう、目に見えて動いてないように見えますけども、しっかりとした議論が進んでることは事実であるというふうに思っていただければと思います。

 そういう中において、やはりですね、診療報酬で、まあ、それを誘導するというようなモノの考え方というのは、医療の提供体制の様態がさまざまであるということを考えると、これはやはり、もう無理があるだろうということは、もう皆さん、ここで共有をしていただきたいと思います。

 ですので、やはり地域のですね、提供体制を、地域医療構想を中心とした形で形作っていくのを見ながらですね、この報酬体系が、前任者(迫井正深大臣官房審議官)もおっしゃっておられたように、やはり「寄り添う」という、この報酬体系が提供体制に寄り添うような形での、要するにまあこの改定に、作業に入っていただきたいということをまず強く要望したいと思います。

 その中でですね、例えば、先ほどからお話に出ておりますように、へき地医療に関しては、これは医療資源的にですね、なかなか診療報酬とかでは手当ができないということは事実でございますので、医療の提供の方法ですね。

 いろいろな方法、例えば、巡回的な診療もありましょうし、先ほどからお話が出ております、かかりつけ医ということもございます。

 ですので、診療報酬ではなくて、医療提供体制のですね、提供方法をですね、どのように評価するかという観点で議論を進めていただければよいかなというふうに思います。よろしくお願いしたいと思います。

 (中略)

[林正純委員(日本歯科医師会常務理事)]
 地域づくり、まちづくりに関して、また地域医療構想に関しては、日本医師会さんと歯科医師会は全く共通の意見でございます。

 ただ、先ほど申しました過疎地の話でございますが、訪問診療を含めまして、過疎地に関してのいわゆる歯科のニーズというもの、どのような問題があるのかというのを一度整理していただいて、

 訪問診療ができ切れているのかどうかとか、

 あるいは通いでどのような通院が可能かとか、

 それから、これはヘルスの面も含めてですけども、巡回診療等もございますので、

 そのあたりで十分担保できているのかどうかというようなところも含めて、問題意識を共通しながら、また今後の議題に進めていきたいと思っております。

 (後略)

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