ゾコーバ錠の薬価収載に向けた対応案がまとまりました。1月25日に審議を開始してから3週間で取りまとめです。本部会で了承した後、同日の総会でも承認されました。【新井裕充】
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1.薬価専門部会(9:30~9:59)
2.基本問題小委員会(10:01~10:20)
3.総会(10:23~11:17)
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今後のスケジュールについて厚労省の担当者は明らかにしていませんが、会議の中で、経団連の委員がこのように述べました。「今後、薬価算定組織で検討が進められていくというふうに思いますが、3月に本件を中医協に諮る際には、複数の比較薬を選定をし、最終的な価格を設定した際のその考え方であるとか、あるいは市場規模予測の設定の根拠等につきましても可能な限り説明をいただきたい」
審議開始から今回までの経緯は次のとおりです。
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・ 1月25日 論点提示(総会後に薬価専門部会)
・ 2月1日 「対応の方向性」の提示
・ 2月8日 業界ヒアリング
・ 2月15日 対応案の取りまとめ
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薬価収載時の対応について、2月1日の部会に示された「対応の方向性」では「複数の比較薬に基づき薬価を算定するなどの柔軟な運用を可能とする」としていましたが、今回の対応案では「柔軟な運用を可能とする」との文言が削除されました。
安川孝志薬剤管理官は次のように説明しました。「柔軟な運用の裁量の範囲が大きくなるような受け止めがあることから、何が具体的な特例かを示し、そのほかのルールは従来どおりであることを書き分けております」
安川管理官の説明はこちらをご覧ください。
https://bit.ly/410J7sQ
また、今回の部会では宿題返しがありました。2月1日の部会で支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)が次のように質問していました。
「総会の委員である間宮委員からの質問でございますが、ゾコーバ錠の処方注意事項には妊娠の可能性のある女性についての記載がございますが、男性についての記載はございません。男性の精子に対して催奇形性が移行する可能性があるのかどうかにつきまして確認がされているのかどうかということをちょっと確認させていただければというふうに思います」
これに対し、今回の部会では「ゾコーバを服用した男性への避妊に関する注意喚起は必要ない」との結論と理由に関する資料「薬-2-1」が示されました。
また、2月8日の業界ヒアリングでの質問への回答も示されました。ヒアリングの質疑で安藤委員は次のように質問しています。
「日薬連様の資料の6ページと7ページにあります経済安全保障上の重要物資でもある抗菌薬の生産額割合が25%以上あったものがこの30年で5%以下に低下しているということについてご説明がありました。その原因についてもご説明あったんですけれども、これに関してお示しいただいた資料は金額だけなんですよね。そこだけですと、どのぐらいの量の変化があるのかっていうのがちょっとわからないので、これに関して、数量に関する年次の推移というのが、もしおわかりであれば、お教えいただきたいなというふうに思います」
この質問への回答が「薬-2-2」(抗菌薬市場の数量推移について)です。
以上をまとめますと、本部会の資料は次の3つです。
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①「薬-1」 → 対応案
②「薬-2-1」 → 催奇形性に関する回答
③「薬-2-2」 → 抗菌薬の推移に関する回答
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質疑では、最初に②③について安藤委員が発言した後、①の対応案について、診療側、次いで支払側委員が意見を述べました。その中で、松本真人委員(健康保険組合連合会理事)の発言は以下のとおりです。
〇松本真人委員(健康保険組合連合会理事)
どうもご説明ありがとうございました。まず資料「薬-1」の対応案についてはですね、おおむね異論はございませんけども、前回までの議論を踏まえまして、いくつか確認と要望がございますので、コメントさせていただきます。
まず資料「薬-1」の対応案についてはですね、おおむね異論はございませんけども、前回までの議論を踏まえまして、いくつか確認と要望がございますので、コメントさせていただきます。
まず、1項の薬価収載時の対応につきましては、(1)の算定方法で、通常は1つの比較薬を選定するところ、ゾコーバの場合は複数の比較薬を選定して、ベースとなる薬価を計算する部分だけ特別の対応を行い、それ以外の部分については補正加算だけでなく、新薬創出加算の適用や費用対効果評価の対象とするかどうかも含めて通常どおりの考え方に従うということで理解いたしました。
前回まで、薬価算定組織の裁量のですね、(裁量)に対して、若干懸念も示されておりましたけども、ここに書かれた取扱いで結構でございます。
薬価算定組織においては、複数の比較薬を用いて1つの薬価を導き出す部分についても、先ほど長島委員等からもありましたけども、可能な限り合理的な説明ができるように丁寧に議論のほうをお願いしたいと思います。
次に、(2)の市場規模予測につきましてですが、先日のヒアリングで業界からも予測が非常に難しいという説明がございました。
感染症の中でも、コロナの流行は特に予測が難しいと思いますが、保険者としては財政影響をなるべく正確に知りたいということもありますので、今後の感染予測や一般流通に移行することによる変化について十分に検討をお願いしたいと思います。
続いて、(4)の保険適用上の留意事項につきましては、かねがね要望しておりましたことを取り入れていただき感謝申し上げます。
学会のガイドラインで推奨されているとおり、軽症患者の第一選択は対症療法であり、ゾコーバは強い臨床症状がある場合に、はじめて候補になるものと考えております。
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「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」P2から抜粋
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さらに先般、説明もございましたが、催奇形性のリスクもあります。有効性と安全性について、患者が十分に理解し、納得した上で適切に薬剤が使用されることは極めて重要です。
留意事項通知において文書による説明と同意の取得が記載されることは保険診療のルールとしては大変重いことですので、医療現場において通知に基づくプロセスを周知徹底いただきたいというふうに考えます。
次に、2項の薬価収載後の価格調整についてコメントいたします。(1)の再算定の方法については、業界の要望や事務局の作業負荷も考え、当面は四半期ごと定期的に累積の販売推計から算出し、1年が経過した後は直近1年間における販売額の推計を更新していくという方向で了解いたします。
ただ、新型コロナの先行きは依然、楽観視できず、急激な財政インパクトも否定できないことも事実であります。
コロナ患者の発生状況と医療現場におけるゾコーバの投与割合に基づいて市場動向を適宜、適切に把握し、1,000億を超えた段階で速やかに特例再算定を適用することは不可欠だと考えております。
再算定の引下げ率や下げ止めについては、薬価収載時の市場規模予測を踏まえて検討することで結構ですが、医療保険制度が極めて厳しい状況にあり、まさに財政負担の在り方について国を挙げた議論が行われているということも押さえておくべきことということは指摘させていただきます。
次に、(2)の再算定を行う際の手続につきましては、猶予期間は通常どおり2カ月から3カ月ということですが、トータルの期間につきましては4カ月程度という目安が明確になり、通常の半分に短縮されることが担保されましたので、これで了解いたします。
最後に3項の「その他」についてですが、基本的に事務局案のとおりで結構ですが、一番最後にあります次期薬価制度改革に向けた議論につきましては、感染症全般を射程に入れるのではなく、本資料にも記載のとおり、市場規模を予測しにくい疾患に絞って検討することを明確にしていただいたものと理解しております。
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2月15日の薬価専門部会「薬-1」P4から抜粋
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その場合でも、例えば耐性菌が発生した場合に最後の切り札となるような抗菌薬や、第8次医療計画で想定する新興感染症の治療薬のようなものは実際に使うことがないような、社会としては望ましく、薬価による評価というよりは、むしろ公衆衛生上の課題として薬価制度以外の政策を検討したほうがよいのではないかというふうに考えます。私からは以上になります。
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