「ミスター年金」。そう聞いて多くの人が思い浮かべるのは、元厚生労働相の立憲民主党・長妻昭氏であろう。しかし、霞が関や永田町ではそう聞いて、元厚労官僚の香取照幸氏を思い浮かべる人が少なくないはずだ。【本根優】
香取氏にはさまざまな異名が付いて回る。2000年の介護保険創設の中心メンバーで「介護保険の鉄人」とも呼ばれた。小泉政権で首相秘書官を務めた飯島勲氏は香取氏の手腕を高く買い「国有財産」と称した。香取氏は社会保障と税・一体改革の青写真も描いた。
将来の「事務次官就任は確実」と言われたが、年金局長時代にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革を巡り、当時の塩崎恭久厚労相と対立。15年10月の人事で、主要ポストとは言えない雇用均衡・児童家庭局長に回った。「次官の芽」は消え、16年6月に辞職した。政治家に対して物怖じせず、官僚として自身の考えを伝える姿勢を評価する声も多かったが、出世の面ではそれがマイナスに働いた格好だ。
その後、17年には駐アゼルバイジャン共和国大使に就き、20年に帰国。上智大学教授となり、現在に至る。政府の「全世代型社会保障構築会議」のメンバーになっている。
その香取氏が10月12日、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」で、気を吐いた。
いわゆる薬価差問題についてこう捲し立てたのだ。
「そもそも薬価差が出るのは公定価格を決めるから。良いか、悪いかという議論は意味がない。問題にするなら公定価格をやめればいい。納入価で請求するとすれば薬価差はなくなる」
さらに「薬価差の帰属先は、定義が納入価と償還価格の差であることを考えれば極めて明らか。薬局と医療機関だ。問題は、卸の立場からすれば、いろんなコストが納入価に反映されない。平たく言えばマージンだ」と断言した。
香取氏はこの検討会に、社会保障全般に精通する論客として加わっている。鋭く問題の本質を突いただけではなく、香取氏にその処方箋まで描けているのだろうか。