「伊吹(文明)氏や尾辻(秀久氏)が抜けた穴は大きい」。
こう嘆くのは医薬品メーカーの渉外担当者だ。
伊吹氏が政界を引退し、尾辻氏は参院議長を務めるため、政府の政策立案に関わることがなくなった。【本根優】
重しを失った自民党厚生労働族の中心は加藤勝信氏、田村憲久氏という厚労相複数回経験者の2人。前厚労相の後藤茂之氏や元厚労相の根本匠氏も一定の存在感を持つ。
長く続いた安倍晋三政権、その路線を継承した菅義偉政権では、政策がトップダウンで決まるため、官邸に「抵抗」する形で、与党が一定の役割を果たしてきた。
ところが、岸田文雄政権では、トップダウンが効かず、財務省を中心とした官僚主導で政策立案が進むケースが増えた。
例えば、薬価の毎年改定(中間年改定)。23年度は2度目の毎年改定となるが、終始財務省ペースで議論が進む。財務省は毎年改定について2年に1回の通常改定と同様の「完全実施」を求めている。
一方で、医薬品業界は16年12月の四大臣合意に則った「価格乖離の大きな品目」に絞った限定的な改定に改めるよう求めている。
自民厚労族はそうした主張を聞いてはいるが、政府への働き掛けは散発的にとどまる。
業界有志の会社との勉強会をつくり、それを率いる衛藤晟一氏は提言を加藤厚労相に手渡すことまでは漕ぎ着けたが、政府全体には受け止められていない。
橋本岳氏が座長を務める自民党社会保障制度調査会下部の創薬力に関するプロジェクトチームも提言をまとめたものの、やはり加藤厚労相に聞き置いてもらうのが精いっぱい。調査会(田村会長)の提言ではなく、あくまでその下のPTのため、影響力を伴わない。
伊吹氏は派閥会長を務めた経験もあり、「ご意見番」として、安倍首相への直談判が行えた。尾辻氏は尾辻氏で「反安倍」と睨まれたこともあって、官邸の警戒感が逆に発言力につながっていた。
岸田政権では官邸のグリップ力が弱いことと、厚労族としての結束が弱いことが重なる。前述の医薬品メーカーの渉外担当者は「なんとなく、仕事をしているフリをする政治家が増えた」とぼやく。