「我田引水ではないが、言葉の端々にそういう要素が滲むのは致し方ない」
そう語るのは、製薬団体に身を移した元厚生労働省幹部だ。【本根優】
1月20日、日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長(エーザイ代表執行役COO)が記者会見で、思い切った発言をして内外の関係者を驚かせた。
「薬剤費抑制策の延長線上では、世界水準の革新的新薬のアクセス確保が困難になる」ということだけではない。社会保障費の膨張などへの制度上の対応に関して「従来の枠組みを超えた国民的な議論が必要」と訴えた。日本の医療用医薬品市場が10兆円強で“ジリ貧”。それでも「医薬品市場は成長をすべき」としつつ、「すべて公的医療保険の枠内だけで実現すべきとは思っていない」と言い放った。
また「公的保険の線引きを超えた議論をする」と表明。受益(給付)と負担のアンバランスの是正に関して、「給付範囲の見直し」や「負担構造の見直し」を検討する意向を示した。
岡田氏は発言の意図について「これまで製薬協会長が踏み込んでないところに踏み込んでいる。これまで製薬協は『自分の畑のことばかり』とも指摘を受けているところだ」などとと説明した。
公的保険の内と外の線引きが必要というのは、現在保険適用されている医薬品を保険から外す話にもつながるため、新薬開発型企業の団体トップとしては、声を上げにくい。にもかかわらず、岡田氏は議論の必要性を口にしたのだ。
ただ、業界関係者からはこんな声も聞かれる。「やや穿った見方をすると、岡田氏が、継続審議になった『アデュカヌマブ』をはじめ、認知症新薬の上市・大型品化を目指すエーザイの最高幹部であることを踏まえれば、公的保険の外側、民間保険を含むところまで見据えるのは頷ける話だ」。