中医協総会で無言を続ける委員

皇居のお堀_2021年12月9日

 中医協総会で、不可解な光景がある。出席委員の発言時間を測定すれば、たぶん日本医師会から選出された3名の合計時間が最も長いはずだ。ところが3名のなかで初出席の日に挨拶をして以降、一言も発言しない委員がいる。日本医師会常任理事の江澤和彦氏である。【堤実篤】

 江澤氏は日医常任理事・松本吉郎氏の後任委員として選出され、さる11月5日の総会に初出席した。以降、12月10日まで中医協総会は10回開かれているが、江澤氏は沈黙し続けている。

 江澤氏に近い医療関係者は「中医協の雰囲気に慣れようとしているのではないだろうか」と推察するが、それにしては沈黙が長すぎる。真意は何だろうか。

 通常、1号側も2号側も新任委員は、2~3回目の出席日から何かしら発言を始めるものだ。

 前回改定では、松本吉郎氏が1号側を代表して意見を述べたが、日医選出委員の今村聡氏も城守国斗氏も積極的に発言していた。今回は城守氏が1号側を代表し、日医選出委員では長島公之氏が、およそ2回に1回、城守氏から「この論点については長島委員に意見を述べていただく」とふられて、長島氏がひと言コメントする程度だ。

 当然、城守氏、長島氏、江澤氏の間で事前に打ち合わせをして、役割分担を決めているのだろうが、なぜ江澤氏に発言の機会が与えられないのか。それとも、本人がみずから発言を控えているのか。

 事情のいかんを問わず、無言のままでは委員に就任した意味がないだろう。

 江澤氏は、全国老人保健施設協会常務理事、日本慢性期医療協会常任理事などにも就任し、日本介護医療院協会初代会長を務めた。2021年度介護報酬改定では、社会保障審議会介護給付費分科会委員として「改定内容策定の舞台裏では厚労省が江澤先生に頼り切っていた」(介護業界関係者)という見方もあるほど政策通なのである。

 確かに第1回の分科会では、口火を切って発言。介護保険制度のあるべき姿について、持論の「尊厳の保障」を切り口に格調の高い見解を述べ、介護報酬改定の方向性を示した。

 ただ、この発言が事前に用意した文章の読み上げだったように、分科会での江澤氏は「議論に応じながら発言するのではなく、事前に用意した文書を読み上げることが多かった」(医療記者)という。

 複数の団体役員に就任している経歴を見れば、たぶん議論には長けていて、到底アドリブが苦手とは想像できない。

 もっとも”無言の中医協委員”は江澤氏だけではない。1号側にもいる。

 指名を受けて発言することが慣わしの専門委員や公益委員(自ら挙手して発言する場合もあるが)と違い、1号側委員と2号側委員は、所属団体から選ばれた経緯が何であれ、就任した以上は主体的に発言をしないと、中医協委員という肩書がたんなるお飾りになってしまう。

 中医協委員は、厚労省関連の公職の中では経歴に箔が付きやすい。シンポジウムなどの演者として登壇する時には、司会者から「中医協委員に就任されている」と医療政策の権威であるかのように紹介される。

 だが、登壇者も来場者も、本人が中医協の場に無言のまま座っていることを知らない──。

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