「横倉さんは、恐ろしい」
日本医師会会長選挙への再選出馬を断念した中川俊男現会長(北海道)の陣営関係者は、そう口にする。目に見える根拠があるわけではないが、今回の「クーデター劇」に少なからず、横倉義武前会長(現名誉会長)の関与があったとみているからだ。【本根優】
6月25日の会長選に向けて、中川氏も再選出馬を一旦表明したが、その後、断念に追い込まれた。松本吉郎常任理事が瞬く間に全国的な支持を広げ、勝てる見込みがなくなったからだ。
中川氏に大きな痛手となったのは、重用してきた松本氏が地盤とする関東甲信越の離反であり、決定打は東京都医師会(尾﨑治夫会長)の不支持だ。しかしその過程でブロック単位では、横倉氏が地盤とした九州が最も早く、5月20日に松本氏推薦を決めている。
国民や政財界からの医師会の信頼感欠如を背景に「中川おろし」を企てる際、候補に挙がる人材のうち、まず野党寄りの思想を持つ尾﨑氏では広がりを欠く。茂松茂人氏(大阪府医師会会長)や柵木充明氏(愛知県医師会会長)では決め手に欠ける上、中川氏との全面対決に陥ってしまう。
そこで白羽の矢が立ったのが、中川氏にも近く、中川氏の支持基盤を切り崩すことが可能な松本氏だった。松本氏は、次期・中川執行部で「副会長」が約束されていた中、それを蹴って、一気に会長選に打って出ることを決断した。
直接、後押ししたのは膝元の埼玉県医師会・金井忠男会長だとしても、全国をまとめるうえで、後見役のようなオーラを放っているのが、他ならぬ横倉氏だ。
6月5日、松本氏の選対本部事務所開きに駆け付けた横倉氏は4期8年の実績をもとに「日医会長になると、一挙手一投足が誰かに見られる緊張の日々。今から緊張した日々を送られるのはご苦労なことだと思うが、国民医療のさらなる向上のために、キャビネット全員で力を合わせて動けるようにしてほしい」と激励した。
横倉氏の心残りは「日医の『グランドデザイン2030』と、医療基本法について、中川会長の下では検討されなかったこと」。
「松本会長」に移行してからも、横倉氏は名誉会長を続投し、それらを前に進めることに尽力することになりそうだ。