第3回中医協・合同部会(2023年11月8日)【速記録】


2023年11月8日の合同部会

 今回の議題は「関係業界からの意見聴取」です。日本製薬団体連合会の上野裕明副会長が「高額医薬品(認知症薬)に対する対応」に係る意見と題する約10ページの資料を説明。診療側と支払側の質問に答えました。同席した岩屋孝彦会長らの発言はなく、全て上野副会長が答え、専門委員の発言はありませんでした。

 1.総  会(8:45~8:50)⇒ 新委員の所属決定
 2.合同部会(9:00~9:37)
 1.総  会(9:43~12:17)

 この日の中医協は、前回10月27日(金)から約10日ぶりの開催です。先週11月1日(水)は開催されず、続いて3日(金)は祝日でしたので、まるまる1週間空きました。(助かった・・・)

 今回は総会と合同部会です。診療側の島弘志氏(日本病院会副会長)の後任として、日本医療法人協会の太田圭洋副会長(名古屋記念財団理事長)が就任しました。そのほか、専門委員3人の交代があり、所属する部会等を決めた後、総会は一時中断して合同部会に移りました。

 合同部会は3回目です。予告どおり業界ヒアリングが実施されました。最初に上野副会長が提出資料を説明。薬価と費用対効果について、主な意見を2枚のスライドにまとめています。薬価関連はP8、費用対効果はP9です。

【P8】
008-0_業界資料

【P9】
009_業界資料

 質疑応答は、これらの意見に対する内容が中心でしたが、P8・9以外の記載に対しても質問や意見がありました。P5とP10です。

【P5】
005-0_業界資料

 このうちP5は認知症施策の必要性等についての意見。「治療薬の負担については国の認知症施策の中で幅広く検討する」との記載に対し、発言がありました。診療側は賛成、支払側は具体的な内容を質問。上野副会長は「例えば基金を設けて、そこに国家予算から保険とは別に手当てするなど、そういった方策もある」と答えました。

【P10】
010_業界資料

 P10は医薬品の貢献の歴史です。糖尿病や高血圧の薬などが挙げられています。上野副会長は次のように述べました。

〇日本製薬団体連合会・上野裕明副会長
 (前略)続いてスライド10をご覧ください。こちらが最後の資料となります。これまで、創薬イノベーションに生み出された革新的新薬は、患者様のアンメット・メディカル・ニーズの改善、解消に貢献してまいりました。これらのイノベーションは一朝一夕に生まれるものではなく、何度も何度も失敗を重ね、ようやく生み出されるものです。そうやって生み出されたイノベーションを適切に評価することは、次のイノベーション創出を加速し、アンメット・メディカル・ニーズの充足、ひいては健康寿命の延伸につながるものと考えております。
 今回、日本から生まれたイノベーションにより、認知症患者さんやそのご家族に希望の光をもたらそうとしております。ぜひとも、この光を消すことなく、将来のイノベーションを加速させるためにも、薬剤費抑制に偏ることのないよう、イノベーションの適切な評価をご検討をお願いいたします。私の発表は以上でございます。ご清聴どうもありがとうございました。

 ところで、既にお気づきの記者さんも多いと思いますが、今回の業界資料には販売名「レケンビ」の文字がありません。一般名「レカネマブ」は1箇所だけ。研究の経緯に関する表(P7)の中に出てくるだけで、「アルツハイマー病治療薬」という言葉が使われています。そして、その開発の難しさ、イノベーション促進や創薬支援の必要性を訴える内容になっています。

 また、今回の業界資料には、「アンメット・メディカル・ニーズ」という言葉が頻繁に使われています。15年ほど前、業界がさかんに「薬価維持特例」の導入を求めていた頃、何度も何度も出てくるのでATOKに単語登録したのですが、最近はほとんど出番がありませんでした。

 この日の部会では、次のような質疑応答がありました。

〇江澤和彦委員(日本医師会常任理事)
 1点だけ質問でございます。10ページにアンメット・メディカル・ニーズに対する医薬品の貢献の歴史のスライドがございます。レカネマブは、薬理作用はこれまでにない画期的なものだと思っておりますが、一方で、その臨床効果について、この10ページのいろいろな疾患に使われているこれまでの薬の臨床効果と比較して、果たして、これ、他の薬と比較して遜色ない臨床効果があるのかどうかというのが、ちょっと今のこれまでのデータを見ていると、少し若干疑問を持ってるとこなので、その点について、また何か知見がありましたら、よろしくお願いしたいと思います。
 (中略)
〇日本製薬団体連合会・上野裕明副会長
 (前略)続いて、2つ目のご意見、2人目のご意見でございますけども、臨床効果については、今後ですね、この薬剤が実際に臨床の現場で使われることによって、どのような効果につながっていくかっていうのは、これから示されていくというふうに考えております。
 ただ、これは一般論としての回答でございまして、レカネマブそのものがですね、これまでどのようなデータを持っているか、あるいは今後、どのような試験を検討しているかについては私どものほうから述べる立場ではございませんので、当該企業のほうと、ご議論いただければというふうに思っております。

 なお、課題となっている介護費用の取り扱いについては、今回の議論でいったん終了という雰囲気です。厚労省から正式な対応案が出たわけではないのですが、次のようなやり取りがありました。

〇長島公之委員(日本医師会常任理事)
 (前略)9ページの3つの意見のうち、まず介護保険の取り扱いについてです。これまでの検討において、介護費用等を含めた費用対効果分析には多くの課題があることが示されております。そこで質問です。業界としては、介護費用等を含めた分析は、どのようなデータを用いて実施することを想定しているのか。どの程度、分析が可能と考えられているのか。教えてください。
 (中略)
〇日本製薬工業協会・上野裕明会長
(前略)ご指摘いただいたように、特にアルツハイマー病のような認知症の介護に関わるその評価というのは非常に難しいということは承知しております。ただ、これまではこういう治療薬がなかった中でのそういう議論だったというふうに認識しておりますと、今回、こういうレカネマブという治療薬が出てきたというこのタイミングを捉えて、やはり当該企業による分析結果を尊重いただいて、その中でどのように組み入れることができるかどうかについて検討いただきたいというふうに思っております。
 これについては、業界団体として具体的になっているものは、特に今現在は持ち合わせておりませんが、例えばですね、これまで10月27日の当該部会にて加藤先生が指摘されたような介護レセプトデータに含まれる日常生活自立度を健康状態の代替指標とすることで費用対効果評価の1つになるんではないかというようなご意見も出されまして、こういうことも1つの可能性として考えていただければというふうに思っております。以上でございます。

 前回10月27日の合同部会では、介護費用の軽減効果などの評価がNDB・介護DBの活用によって可能かどうかを研究者が発表し、難色を示しながらも、わずかに残る可能性をこのように指摘しました。

〇加藤源太参考人(京都大学医学部附属病院診療報酬センター)
 (前略)介護DBの場合、介護の認定審査などのタイミングで医療の被保険者番号を順次収集するということになりますので、どの程度、介護DBのほうに、この、網羅的にID5が付与されているのか、その付与率についてはまだ十分に確認できておりません
 (中略)
 介護レセプト情報は、介護のサービスが発生した翌月以降に発行され、基本的にサービスを受けたら、その月ごとに集計を得ることが可能になります。一方で、要介護認定情報は新規であったり、それから区分の変更、更新など、数カ月、場合によっては年単位での、認定を受けたそのタイミングにしか得ることはできません。要介護度の情報だけであれば、介護レセプトに記されたサービス情報からある程度、類推することができます。ただし、認知機能に関する詳細な情報は要介護認定情報にしか含まれてない場合も多く、そうした場合には要介護認定情報に含まれる認知機能の評価、それから介護レセプト上の介護サービスの提供の実態の関連などを評価しようとすると、この各月のレセプト情報に要介護認定情報をさかのぼって埋め込むといった、相応の技術的負荷が発生すると見込まれます。
 (中略)
 認知症患者の多くは高齢者で認知症以外にも併存症がございますので、実施されている検査、処置、これらが認知症に対して行われたのか、あるいは、その他の併存疾患に対して行われたのかを判定するのは検査や処置にもよるのですが、難しい場合がございます。それから、NDBデータには検査結果、それから病状、こういったものを反映する直接的なデータがございません。このため、治療効果などをNDBデータのみから検証することは簡単ではございません
 (中略)
 介護DBデータにつきましても、NDBデータと同様、提供されたサービスと認知症との直接的な因果関係がどこまで検証可能かが不透明です。認知症であるがゆえに必要とされた介護サービスなのか、併存疾患やその他の理由により必要とされた介護サービスなのかの区別が容易ではございません
 (中略)
 認知症があるにもかかわらず、要介護の審査判定を受けていない事例は、これは相当数あると見込まれます。したがいまして、評価・分析を行う際に、どういった事例を認知症事例として評価するのかについては、かなり厳密に方針を立てて臨む必要がございます。
 (中略)
 どちらかと言うと、「厳しいんではないか」というような話を述べてまいりましたが、ただ、そのような状況でも、今後どういったことが実現可能かということも検討すべきかと考えます。そこで、ここからは連結データを用いた分析の可能性の事例を申し上げたいと思っております。まず、ID連結の精度がまだ不明なため、連結できたデータのみを使用するという前提でお話ししますと、介護サービスを受ける者のADL情報は要介護度のほかに要介護認定情報に含まれる、こちらの日常生活自立度の項目がございます。「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」でございます。これは、ほぼほぼ、身体機能を反映してると思われます。もう1つは、「認知症高齢者の日常生活自立度」。この2項目で表記されています。この両者の違いを、両者を使うことで認知機能の違いが医療費や介護にどういった差をもたらしているのかを評価することは不可能ではないと思われます。例えば、障害高齢者の日常生活自立度、寝たきり度ですとか、年齢ですとかが同じであれば、これを揃えた上で認知症高齢者の日常生活自立度のスコアの違いが介護費用の差にどう表れるかということを明らかにするなどといったことが考えられます。
 (中略)
 こちら、「要介護認定情報(D_NINTEI)」というレコードの所の項番165、166の所を探せば、この寝たきり度ですとか認知症高齢者自立度というのの状況を知ることができます。次のページ。これも厚労省の定義表にございますが、例えば寝たきり度でございましたら、自立していれば、コード値は「1」。一番悪い状況だと「8」といったかたちで情報を得ることができます。これを、NDBの、例えば認知症の治療薬の使用状況、あるいは、それに基づく認知症の程度の度合いの推移と絡めて分析することで、介護費用にどう影響が出たかということを評価することは、種々、調整が必要かと思われますが、可能性としてはあるのではないかと考えております。私からは以上となります。どうもありがとうございました。

日常生活自立度P12_加藤源太

 日本製薬団体連合会・上野裕明副会長の回答に対し、江澤委員はこのように述べました。介護費用の取り扱いに関する議論はほぼ終了という印象。将棋で言えば、「詰み」あるいは「詰めろ」の状況でしょうか。

〇安川文朗部会長(京都女子大学データサイエンス学部教授)
 (前略)ご回答ありがとうございました。ご質問いただいた委員の方、よろしいでしょうか。じゃ、江澤委員、お願いいたします。
〇江澤和彦委員(日本医師会常任理事)
 1点だけ、すいません、お願いいたします。認知症日常生活自立度は認知機能を評価するものではなくて、BPSDとか日常生活に支障をきたすような状態を示すもので、どちらかと言うと、薬よりは臨床の現場の立場で申し上げますと、薬よりは介護とか、あるいは人の関わり方、あるいは環境的な要因で結構、改善するものが多いということで、今、新たな生活機能にも着目した認知の評価尺度というのも今、検討されておりますので、いろいろまた今後、いろんな視点から、またいろんなデータをお示しいただければ大変ありがたいので期待しております。ありがとうございます
 (中略)
〇松本真人委員(健康保険組合連合会理事)
 (前略)続きまして、9ページに行きたいと思います。一番最初にございます介護費用の取り扱いについてですね、これについては先ほど各委員から、いろいろございましたので、それで理解をしたいと思いますが、今後ですね、こうした認知症の関連の医薬品の保険収載がたぶん出てくると思うんですけども、その際にも同様にこういったことをやるんだということが製薬業界なり協会としてですね、ある程度、合意が取れてるものなのか。
 (中略)
 介護費用のですね、こうした軽減を医療保険の財源を使って評価するということについては、従来から、制度あるいは哲学等の問題があるということは指摘しておりますけども、最終的には薬価に転嫁するということになるとすればですね、医療保険者の立場からいたしますと、全体を考えた場合には、薬剤費の適正化をさらに検討せざるを得ないようになると思いますけども、そのことについては業界全体としてどのようにお考えなのかということをお尋ねしたいと思います。私からは以上でございます。
 (中略)
〇日本製薬団体連合会・上野裕明副会長
 (前略)最後のご質問でございますけども、これから、これを契機に認知症の治療薬が世の中に登場すること、これは私どもとしても非常に期待しております。ただ、それがですね、今回のレカネマブと同様かどうかっていうのは、それは基本的には、その薬剤、薬剤の1つひとつの特性によって個別に評価されるものだということで、それについて業界全体として統一の今、意見を持っているということではございません。以上、お答えさせていただきました。
〇安川文朗部会長(京都女子大学データサイエンス学部教授)
 はい、ありがとうございます。松本委員、よろしいでしょうか。
〇松本真人委員(健康保険組合連合会理事)
 はい、ありがとうございました。介護費用の取り扱いにつきましては、今後、研究班とかいろんな場でですね、研究を進めるべきかどうかという意味合いもありましたので、お尋ねした次第でございます。ありがとうございました。
〇安川文朗部会長(京都女子大学データサイエンス学部教授)
 ほかに、ご質問、ご意見等はございますでしょうか。よろしいでしょうか。はい。大体、ご質問、ご意見等も出尽くしたようですので、関係業界からの意見陳述につきましては、ここまでとさせていただきます。業界の皆さま、ありがとうございました。今後、事務局におきまして、本日いただいたご意見も踏まえて、ご対応をいただくようにお願いをいたします。

 スケジュールはこのようになっています。(10月18日の第1回会合資料「薬費-2」P3)

議論の進め方

2023年11月8日(水)に都内で開催され、YouTubeでライブ配信された中医協・合同部会(第3回)の速記録(非公式)です。弊社が独自に作成したものですので、厚生労働省の公式議事録とは異なることにご注意ください。

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