「そんなことで偏在が解消するわけがないのに、(財務省・財政制度等審議会が)そんなことを堂々と言えていることが問題だ。日医を中心に、一枚岩で戦う医師会になるべき」。6月2日の日本医師会会長選挙に絡む会合で、そう訴えたのは、奈良県医師会の安東範明会長。全国の医師会が過敏に反応するあるトピックが政府内で再び浮上し、警戒感が強まっている。 【本根優】
それが「地域別診療報酬」だ。かつて“震源地”となったのが奈良県だった。荒井正吾知事(当時)は20年、新型コロナウイルス感染症の影響で経営危機に陥る医療機関を支援するため、全国一律で1点10円の診療報酬単価を、県内の医療機関では1点11円に引き上げることを検討すると表明した。
荒井知事は加藤勝信厚生労働相(当時)に意見を提出するなど、精力的に動いたものの、医師会が強く反対するなどし、実現することはなかった。
今回は「骨太の方針2024」原案に、地域別診療報酬を視野に入れた文言が盛り込まれた。医師偏在対策に関する記載だ。
「医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在の是正を図るため、医師確保計画を深化させるとともに、医師養成課程での地域枠の活用、総合診療医の育成、リカレント教育の実施等の必要な人材を確保するための取組、経済的インセンティブによる偏在是正、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた取組の実施など、総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する」
このうち、財務省・財政審の文脈では「経済的インセンティブによる偏在是正」という文言に、地域別診療報酬を忍ばせていることになる。5月の財政審建議で「診療所過剰地域の報酬単価引き下げ」を打ち出した。診療所の不足地域と過剰地域で異なる単価を設定し、医療資源をシフトさせることを提言。当面の措置として、過剰地域の単価引き下げを先行させ、それによる公費節減効果を活用して医師不足地域での対策を別途強化することを掲げた。都市部の診療所の報酬を下げて、医師の地方への分散を促す狙いがある。
実現性はともかく、6月21日に閣議決定する予定の骨太の方針に入れば、検討は行われることになる。
政府・与党へのロビー活動を日々行う医療関係者がぼやく。
「我々が強く主張していることはなかなか取り込んでくれないのに、財務省や財政審の考えは容易に骨太に反映される」
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