自民党政務調査会の社会保障制度調査会(会長=田村憲久衆院議員)は5月9日、「医療・介護・障害福祉分野の物価高騰・賃金上昇への対応」と題した決議をまとめた。24年度トリプル改定での「大幅引き上げ」を求めている。ただ、そこに力強さが伴わっていない。【本根優】
決議では「世界的なエネルギー価格の高騰などで、3月の消費者物価指数は、前年同月比で約3.2%上昇と高騰している」と指摘。さらに「春闘ではインフレ率を超える賃上げが目指され、4月時点の平均賃上げ率は約3.7%と30年ぶりの水準」とも示した。
その上で医療機関について「病院団体の調査では、水道光熱費が4割超の増となり、医業費用も近年例をみない水準の約4.1%増となるなど費用が上昇し、経常利益の平均は21年度のプラスから22年度はマイナスに転じている」と紹介。「そうした中で、平均賃上げ率は約1.9%にとどまっている。24年4月から施行される医師の働き方改革を踏まえ、地域医療を支える人材供給源としての大学病院特有の対応も必要」とも訴えた。
また、全就業者の約13%(約900万人)を占める同分野の就業者の生活を守り、国民に不可欠なサービスを確保するために、物価高騰・賃金上昇に対する取り組みが必要と説いた。
具体的には「過去30年余経験したことのない物価高騰・賃金上昇の状況や人材確保の必要性を踏まえ、大幅な引き上げを行うこと」を要望した。
社会保障関係費の伸びに関しては「高齢化の伸びとは別に、物価高騰・賃金上昇への対応」を求めた。加えて「消費税収が大幅に増加している状況を踏まえ、その増収分を活用した措置を行うことを検討」するよう提言した。
この決議の実効性に疑問符が付く理由はいくつかある。ある元厚労省幹部が解説する。
「何度も厚労相を務めたとはいえ、党内では完全に非主流派の田村氏が会長の調査会決議となっている。ペーパー自体の位置づけも、決議の体裁だが『党内論議の材料』として提示している」
さらには「『大幅引き上げ』自体も、骨太の方針策定前の段階だから当然かもしれないが、どうとでも取れるような物言い」との見方を示す。
22年度の診療報酬改定本体は0.43%増だった。近年は0.4~0.5%程度のプラスで推移している。「大幅引き上げ」とは、これを超える水準を指すのか、それとも1%を上回るようなプラス改定を指すのか、それ以上なのか、現段階ではあいまいなままだ。
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