日本看護協会は11月10日、加藤勝信厚労相に、看護小規模多機能型居宅介護の制度改正について要望書を提出した。主な要望事項は①看多機を利用者が所在市町村の住民に限定される「地域密着型サービス」だけでなく、複数市町村の住民が利用できる「居宅サービス」にも位置付ける②登録定員の上限を29人超に拡大する③介護保険法における看多機の定義を見直し、通い、泊まりにおける「看護」の定義を明記する──など。【鯉渕甫】
看多機の事業所数は2022年4月時点で全国に872事業所。日看協は「小規模な自治体では、看多機事業所が 1 カ所もないところもある」と訴えるが、全国の市町村数は1718市町村だから、事業所数だけを見れば確かに少ない。
事業所数の増大、定員増による大規模化──この要望に対して、老健関係者は違和感を禁じ得ない様子だ。
「看多機の量を拡大するよりも、老健の機能強化を図ったほうが社会保障費の膨張に歯止めをかけやすい。なぜなら医療機能とリハビリ機能を持っているからで、対応力の幅が広い老健に財源を投入したほうが適正配分と言える」
介護老人保健施設の数は 4304 施設(2020年10月時点)。看多機の拡大よりも老健の機能を拡充させたほうが現実的という意見にも一理ある。
かねてから多くの老健関係者は「老健こそ地域包括ケアシステムの中核拠点」と豪語して、医療機能を有する分、他の介護保険サービスよりも格上と自認している。そこに2012年4月に創設された新顔の看多機が「看多機は主な介護保険サービスの中でも、今後の利用者数の大きな伸びが見込まれている」(日看協)として、勢力拡大を企図しているように見えて看過できないのだろう。
両者の言い分を単純に見れば、地域包括ケアシステムのポジションをめぐって、介護保険サービスのカテゴリー間の覇権争いが勃発したようなものだが、実情は異なる。サービスが細分化され、サービス間の整合性が取れなくなってしまったのだ。
介護保険制度が2000年に創設されて以降、次々に新たなサービスが追加され、現在の介護保険サービス数は26種類54サービス。温泉旅館が増改築を繰り返しているうちに、館内が迷路のようになってしまい、従業員にとっても宿泊客にとっても使い勝手が悪化したケースと根本は同じである。
利用者と家族にとっては、適切なサービスを受けられれば老健でも看多機でもどちらでもよいのだが、縦割り行政ならぬ縦割りサービスの拡大で、すっかり使い分けが厄介になった。厚労省老健局OBは「介護業界団体や事業者が自分のカテゴリーの勢力拡大に固執して、利用者の利便性は二の次になってしまった」と嘆いている。