感染症の流行初期に対応する医療機関の減収を補償する仕組みについて、厚生労働省は8月19日の社会保障審議会・医療保険部会にイメージ(案)を示した。委員から「唐突な提案で議論の進め方としても丁寧さに欠けており、事務局案での検討には納得できない」との声があった。【新井裕充】
厚労省は同日の会合に「感染症法の改正について」と題する資料を提示。政府の感染症対策本部が6月にまとめた「対応の方向性」や厚労省・感染症部会の方針などを踏まえ、「事業継続確保のための減収補償の仕組みのイメージ(案)」を示した。
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厚労省の担当者は「初動対応等を含む特別な協定を締結した医療機関が一般医療の提供を制限し、大きな経営上のリスクのある流行初期の感染症医療を提供することに対して減収補償を行ってはどうか」と提案した。
その上で、費用負担者について「国・都道府県が考えられるが、(17日の)医療部会での意見を踏まえると、保険者の方々に一部負担をお願いすることをどのように考えるかが論点」と説明した。
減収補償(事業継続確保措置)のスキームについては、「災害時の診療報酬等の概算請求・支払を参考に、感染拡大前の水準での診療報酬支払制度の創設が全国知事会など関係団体から要望が出されている」と伝えた。
質疑で、村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は「医療供給体制の確保は大変重要」としながらも、「感染症蔓延時に必要な医療機能や保険診療体制を維持するための費用は基本的に公費によって賄われるべき」と主張した。
その上で、村上委員は「そもそも社会保険に馴染むのかという根本的な疑問もある。唐突な提案で議論の進め方としても丁寧さに欠けており、事務局案での検討には納得できない」と苦言を呈した。
保険者団体の代表らも費用負担を問題にした。
安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「危機発生時に備えて平時において都道府県と医療機関との間で病床提供に関する協定を結ぶ目的は感染症の蔓延を防止するため」との認識を示し、「このような目的の感染症対策は公費負担で行われることが原則」と述べた。ほかの委員からも「全て公費負担で」との意見が相次いだ。
減収補償の対象となる医療機関についても意見があった。藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「減収補填は真に感染拡大防止に貢献する医療機関を対象に行われるべき」とし、厚労省の見解を求めた。
厚労省医政局の古川弘剛医療政策企画官は「感染症の特性がわからない感染初期に、その地域で中核的に感染症医療に当たっていただくような医療機関に限定する。通常医療、一般医療を止めて対応いただくような医療機関に限定したいと考えている」と答えた。
このほか、「流行初期の明確な位置づけがわからない」との声もあった。酒向里枝参考人(経団連・経済政策本部長)は「どこから始めて、どこで終わるのか。これを関係者間の共通認識で明確にするよう、今後、具体的な議論が必要」と指摘した。
〇田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
それでは、早速でございますけれども、議事のほうに入ってまいりたいと思います。本日は「感染症法の改正について」、それから「オンライン資格確認等システムについて」を議題といたします。
では、はじめに「感染症法の改正について」を議題といたします。早速ですけれども、事務局のほうから資料の説明のほうをお願いいたします。では、よろしくお願いいたします。
資料説明
〇厚労省保険局保険課・原田朋弘課長
はい、保険課長でございます。それでは、「資料1」について、ご説明いたします。
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感染症法の改正の関係でございますけれども、新型コロナウイルスの感染症に関しましては本年6月に、参考資料を付けておりますけど、
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政府の対策本部におきまして、「次の感染症危機に備えるための対応の方向性」というものが決定されてございます。
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その内容につきましてですね、厚生科学審議会感染症部会等においてですね、現行の感染症法等におけます課題と対応等が検討されているということでございます。
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1ページと2ページ、その感染症部会での資料の抜粋でございますけれども、その中身といたしまして、感染症に対応する医療機関の抜本的拡充に関しまして、1ページの所、「課題」でございます。
感染症患者の専用病床を有する感染症指定医療機関だけではコロナの入院患者を受け入れきれなかったと。通常医療を制限してでも病床確保をする必要が生じたが、体制の立ち上げに時間がかかったという課題。
また2つ目にありますとおり、感染拡大初期におきまして、新型コロナの特性も明らかでない時期から対応する医療機関と、後に対応する医療機関との役割が平時から明確ではなかったと。地域によって役割の調整が困難だったといった課題。
また、感染拡大する中で、コロナの特性が明らかになったあとにおいてもですね、地域によっては病床確保や発熱外来等の医療体制が十分に確保できないことがあった等々の課題が指摘されているところでございます。
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こうした課題に対しまして政府対策本部で決定しました先ほどの対策の方向性ですけれども、2ページ目をご覧いただいて、1つ目の丸でございます。
平時においてですね、都道府県と医療機関との間で新興感染症等に対応する病床等を提供する協定を結ぶ「全体像」の仕組みを法定化してはどうかと。
そして、医療機関に対し、協定に沿って病床確保等を行うことについて履行の確保を促す措置を設けるなど、より強い権限を持つことができるよう法律上の手当を行うということが記載されてございます。
その中の具体的な事項といたしまして、1つ目の丸にありますとおり、都道府県はですね、感染症まん延時等における医療提供体制の確保に関して数値目標等を盛り込んだ計画を平時から策定するとか、
あらかじめ医療機関との間で病床や外来医療の確保等の具体的な内容に関する協定を締結する仕組みを創設すると。
そして、平時から必要な病床を確保できる体制を整備するといったことを書かれてございますけれども、
3つ目の事項といたしましてですね、こうした協定に沿った履行をですね、感染症まん延時等において確保するための措置を具体的に検討してはどうかということが書かれております。
そうした中身の中でですね、一定の医療機関にかかる感染症流行初期におきます事業継続確保のための減収補償の仕組みを創設してはどうかという話が記載されているということでございます。
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こうした議論に関しまして1ページおめくりいただきまして、3ページでございます。
一昨日に開催されております医療部会においてですね、ご意見が出ておりまして、
1つ目はですね、減収補償につきまして、感染症対応が不十分では社会経済が回らないこともあるかと思うので、これを全部公費で負担するというよりも、広く国民で支えるという仕組みが良いのではないか。
公費、それから保険料を減収補償に投入できるという仕組みをつくるというのはどうかといったお話。
また、諸外国の例を見ますと、どこの医療機関が何をやるか、どの医師・看護師が協力するのかといったことがあらかじめ計画をされており、有事にそれに基づいて病床や人員の確保を行うと。
また、カナダにもそういったものがあり、保険医療機関が関与していると。
これらも参考に、感染症対応について保険医療機関が協力するということを健康保険法に明記すべきではないかといったご意見があったところでございます。
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4ページ、おめくりいただきまして、先ほどご説明いたしました減収補償の仕組み、これ、どういった仕組みを想定しているかというイメージ、お付けしております。
「措置の目的・内容」の所をご覧いただきますとですね、「初動対応等を含む特別な協定を締結した医療機関」につきまして、一般医療の提供ということで経営の自律性を制限して、経営上リスクのある流行初期の感染症医療の提供をすることに対しては減収補償を行ってはどうかという考えでございます。
補償額につきましてはですね、感染症医療の提供を行った月の診療報酬収入と、あと1年前のですね、診療報酬収入が下がった場合、その差額を支払うという考えでございますけれども、
補助金が出される場合にはですね、減収補償の範囲内で補助金の額を返還、精算するといった考えでございます。
事業の実施主体は都道府県ということを想定してございますけれども、
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その費用負担者について、1つは国・都道府県が考えられますけれども、医療部会での意見を踏まえますと、保険者の方々に一部負担をお願いすることをどのように考えるのかというのが論点かと考えてございます。
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この減収補償などのですね、医療機関の経営支援に関しましては、先の財政制度等審議会でもですね、感染拡大前などと同水準の診療報酬を支払う方法といったものが提案されてございますし、
また、災害時の概算払いを参考にですね、感染拡大前の水準での診療報酬支払制度の創設といったものをですね、全国知事会など関係団体から要望が出されておりまして、
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ご参考までに5ページにですね、災害時の診療報酬等の概算請求の支払の仕組みを掲載させていただいてございます。
説明は以上でございます。
〇田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
はい、ありがとうございました。それでは、ご意見等ございましたら、よろしくお願いいたします。
質疑応答
〇横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長、多久市長)
(前略) 今回は、減収補償の仕組みまで検討いただいてます。
このことは医療機関においても大変心強い視点だと思いますので、今後いろんな意味でブラッシュアップしていかれると思いますから、いろんな、特に医師会の皆さん等の現場の意見も聴きながら、よりよいものになるようにご尽力をぜひお願いしたいと思っているところです。
(中略)
〇村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)
(前略) 事業継続確保のための減収補償の仕組みのイメージが示されております。
この中では費用負担者に保険者も入っております。保険料から拠出するという考え方については、保険者・被保険者の納得性という観点から到底承服できるものではありません。
医療供給体制の確保は大変重要でありますが、感染症まん延時に必要な医療機能や保険診療体制を維持するための費用については、基本的に公費によって賄われるべきと考えます。
感染症法改正では、新興感染症に備えて、都道府県と医療機関が結ぶ病床提供等の協定を法定化する方向とされておりますが、一度と締結された協定は見直されるのか。
診療報酬がマイナス改定となったときの補償額をどのように考えるのか、疑問は尽きません。
そもそも社会保険に馴染むのかという根本的な疑問もございます。
唐突なご提案で議論の進め方としても丁寧さに欠けており、事務局案での検討には納得することはできないということを申し上げておきたいと思います。
(中略)
〇藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)
(前略) 具体的な論点としましてですね、資料4ページに、都道府県と協定を締結して初動対応を行った医療機関に対し、減収補填する仕組みのイメージが掲載されております。
補償額の一定割合は保険者が負担する案となっており、仮にこのような仕組みとなった場合、保険者負担額の原資は被保険者が支払う保険料になると思います。
公費の投入も想定されていることを踏まえますと、減収補填は真に感染拡大防止に貢献する医療機関を対象に行われることとすべきであります。
このような視点を念頭に置いた運用が必要と思いますが、これをどのようなかたちで担保するのか、厚生労働省のお考えをお聞かせください。よろしくお願いいたします。以上です。
〇田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
はい。それでは、よろしくお願いいたします。
〇厚労省医政局・古川弘剛医療政策企画官
お答え申し上げます。医政局の医療政策企画官でございます。ご質問ありがとうございます。
この事業継続確保のための減収補償ということでございますが、特に感染症のですね、この感染の特性がわからないですね、感染初期につきまして、その地域でですね、その中核的にその感染医療に当たっていただくような医療機関というものを限定して、
一方で、当然ですね、そういったことを対応いただくことによって通常医療、一定程度、制限いただくというふうなこともですね、あわせて行うということになると思いますので、
当然、こちらの対象についてはですね、感染初期に地域で中核的に対応いただく一般医療、通常医療をですね、止めてご対応いただくようなところに限定して対象としたいというふうに考えているところでございます。
(中略)
〇佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)
(前略) 先ほど、ご意見ありましたが、新たな感染症発生時における医療インフラの維持、これはやっぱり本来、全額公費で賄うべきというふうに考えます。
資料4ページにですね、減収補償の仕組みが入っておりますけれども、たとえコロナ禍に匹敵するような事態であったとしてもですね、やはり、診療行為がないにもかかわらず保険者が費用負担をすると、これはやっぱりおかしいのではないかと思います。
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本件への負担を行うことはですね、保険者である健保組合、また加入者の理解は得られにくいもんだというふうに考えております。
そういった中で、仮に保険者の負担をですね、検討するとしても、まさに緊急時の対応として、対象期間も含めてですね、例外的かつ限定的な取扱いとすべきだと思います。
そういった中で、保険者の負担がですね、過大にならないように、ぜひ対応をいただきたいというふうに考えます。以上でございます。
〇田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
ありがとうございました。それでは安藤委員、よろしくお願いいたします。
〇安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)
はい、ありがとうございます。今回、事務局よりご提案がございました感染症まん延時等において都道府県における医療提供体制確保に関する協定を締結する仕組みを創設し、また、それを法定化することについては賛成でございます。
しかしながら、流行初期における特別な協定の医療機関に対する減収補償について、保険者も費用を負担することが検討されておりますが、
今回の法改正は感染症危機発生時に備えて平時において都道府県と医療機関との間で病床提供に関する協定を結ぶこととするものであり、その目的は危機発生時に感染症がまん延することを防止することでございます。
このような目的で行われる感染症対策は行政の責任において費用は公費負担で行われることが原則であると考えております。
今回の法改正によって国民へのまん延防止を目的とする感染症対策に保険者負担が入ることになり、これまでの原則が崩れてしまうこととなるので、協会けんぽとしましては本件については慎重を期すべきであるというふうに考えております。
また、このような案をお示しいただく前提として、今般の新型コロナウイルス感染症におきまして、平時、流行初期、それ以降の医療機関の経営状況がどのようなものであったのか、具体的な検証データをまずはご提示いただく必要があるというふうに考えております。以上です。
〇田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
はい、ありがとうございました。それでは次、井深委員、よろしくお願いいたします。
〇井深陽子委員(慶應義塾大学経済学部教授)
はい、ありがとうございます。感染症まん延時の医療提供体制の確保について平時から制度化しておくという取組は必須であり、現行の外来での出来高払いを基本とした支払制度のもとでは、感染症患者受入れに伴う医療機関の経営リスクを緩和するために減収を補償するという取組が必要であるという、そういう趣旨には共感いたします。
このスキームは今後、細部を詰めていかれることになるのではないかと思いますが、このような新しいスキームを検討する際には、運用の開始の議論とともに、いったん補償が始まったあと、どのような状態になった場合に補償を終えるのか、という終わり方についても併せて議論しておく必要があるのではないかと考えます。
これは補償の目的とも関係するわけですが、仮に減収補償の目的が流行初期の対応という部分に焦点を置くのであれば、そこに限定するというのも1つの考え方ではないかと思います。
あるいは、現在、描かれているスキームにあるように、流行初期だけではなく、流行初期以降、補助金、診療報酬上乗せが充実した後にも減収補償を併用するスキームを行うということであれば、補助金、診療報酬上乗せ、減収補償、それぞれが別の目的をもって運用されるわけですけれども、
それらが感染症医療に果たす役割と、また、その上での財源との対応について、あらかじめ整理しておく必要があるのではないかと考えます。以上です。
〇田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
ありがとうございました。
(中略)
〇酒向里枝参考人(経団連・経済政策本部長)
(前略) 事業継続確保のための減収補償の仕組みについて2点、申し上げたいと思います。
1点目、費用負担の在り方についてでございます。
現行イメージ案で費用負担者に保険者を想定しているというご説明があったところでございます。
この点でございますが、新たな感染症発生時に協定に基づいて必要な医療を提供する医療機関に対して支援を行うということは大変重要な課題だと思っております。
他方、保険料は診療報酬の対価として診療報酬に充当すべきものでございますし、
先ほど佐野委員、安藤委員からもございましたけれども、こういった減収補償につきましては全額公費によって対応すべきものではないかと考えております。
2点目でございます。
このイメージ図にありますけれど、この仕組みが適用される期間、その「流行初期」というのはどういったところか、どういった位置づけになるかといったところでございます。
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「流行初期」の明確な位置づけがこれではわからないなと思っております。
先ほど、この点、井深委員からもご指摘があったところでございます。どこから始め、どこで終わるのかといったところでございます。
こういったところを関係者間の共通認識を明確にするよう、今後、具体の議論が必要であると考えます。以上です。
(以下略)