19年度から正式に運用された医薬品の費用対効果制度で、初の価格調整事例が出た。一見すると、丁寧な情報公開がなされているようだが、日本独自のかなり危うい制度との見立てが少なくない。【本根優】
企業分析、有識者らによる公的分析、総合的評価を経て価格調整案が4月14日の中央社会保険医療協議会総会に示された。ノバルティスファーマのCAR―T細胞療法「キムリア」は約4.3%減、グラクソ・スミスクラインの慢性閉塞性肺疾患(CОPD)治療薬「テリルジー100エリプタ」は約0.5%減となった。これらの類似品目も同様の引き下げを受ける。
支払い側委員は、キムリアについて、対象集団ごとの患者割合が企業秘密として非公表になった点を改めて疑問視。「これが前例となれば、何でも企業秘密になってしまう」と懸念を示した。
では、患者割合が示されたテリルジーの方の価格調整には、合理性があるのか。医療経済の専門家は首を傾げる。ICER(増分費用効果比)に基づき、ダイレクトに価格を動かしてしまう国は、日本だけだからだ。
例えば、テリルジーの対象集団の切り方。併用薬剤や前治療の違いなどから、12の対象集団ごとにICERを出した。
ところが、この仕組みでは、費用対効果が悪い集団を独立させれば、他の集団は費用対効果が良くなる。「悪い」と「良い」であれば、引き下げと引き上げで相殺されそうだが、引き下げは素通りである一方、引き上げには厳しい条件があり、企業が証明しなければならない。結果的に、引き下げが勝ることになる。
事実、テリルジーにも「ドミナント」(効果が増加し、費用が削減)が2集団あったが、価格調整では引き下げとなった。換言すれば、サブグループを切り刻んだ方が、価格が下がりやすくなることを意味する。切り方自体でICERはいくらでも変化してしまうのだ。