中医協で「悪しき前例」を言い出したらキリがない。新型コロナの影響を踏まえた猶予策について、いろいろと反対していた健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏は9月16日の中医協総会で「一律に延長するという会長のご決定を尊重したい」と引き下がった。水面下で決めて文句を言わせない「悪しき前例」である。【新井 裕充】
厚生労働省が同日開いた総会で、座長の小塩隆士会長は「経過措置の期間をもっと短くするべきだという意見も頂いていた」とし、“会長預かり”(保留)になっていたことを説明。
その上で資料の該当ページを紹介し、「今後も、必要な対応について検討する」ことを理由に挙げ、「承認扱いとさせていただきたく旨、決定させていただいた」と述べた。
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しかし、いったいどこで決めたのか。さらに、幸野氏が反対していたのは「延長」だけだったか?
この質疑で、支払側の幸野氏は「前回の中医協で一律に経過措置を延長することに反対しており、一言申し上げたい」と切り出した。「また始まったか!」と思った人もいるだろう。
ところが今回は反対せず、「会長のご決定を尊重したい」と承認した。ほかの委員の発言はなかった。
ある業界記者は、「幸野委員は臨時的取扱いも経過措置も両方反対していなかったっけ?」と首をかしげる。私も同感だ。「幸野委員がどの部分の何に反対なのか特定できないから、全部丸ごと“会長預かり”にしたんじゃないの?」という声もある。
前回8月19日の総会で、厚労省は主に2つのテーマについて猶予策を提案した。1つは「臨時的取扱い」、もう1つは「経過措置の取扱い」である。
このうち「臨時的取扱い」は、緊急事態宣言の対象が「一部」の都道府県でも、猶予される対象は「全て」の都道府県とする内容で、これは8月末の事務連絡で決着している。つまり、“平場”の議論をせずに事務連絡の発出で押し切ってしまった。
問題はもう1つの「経過措置」で、9月末で切れる措置を来年3月末まで延長する内容。これが、果たしてどこで決まったのか分からない。ちょっと調べたところ、9月1日に事務連絡を出しており、これで決着したようである。どこか釈然としない。
もちろん、コロナで全国の医療機関が大変な状況なので、幸野氏を支持する声は聞こえてこない。
幸野氏を擁護する気はサラサラないが、公開の場で決めずに、しれっと終わらせてしまう手法は「悪しき前例」か。いや、緊急事態なのだから、悠長に議論している時間はないという考えもあるか。
ちなみに、「会長決定」というのはフィクションだ。厚労省保険局医療課の担当者が作成した原案を小塩会長(一橋大学経済研究所教授)が追認したにすぎない。無言の有識者を利用して政策を進めていく。これも「悪しき前例」だろう。
9月16日の厚労省説明と幸野委員の発言は以下のとおり。
〇小塩隆士会長(一橋大学経済研究所教授)
(前略) 特にご質問等ないようですので、本件に関わる質疑はこのあたりとしたいと思います。
次は私からです。
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前回、8月19日の中医協総会におきまして、「新型コロナウイルス感染症への対応とその影響等を踏まえた診療報酬上の対応について」の議事につきまして、「会長預かり」とさせていただいておりました。
本件につきましては、「経過措置の期間をもっと短くするべきだ」というふうなご意見も頂いております。
そういうご意見も踏まえまして、「総-7-3」をご覧ください。
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ここで、2ページ目の所にございます四角囲いの2つ目の丸の所に、「新型コロナウイルス感染症への対応とその影響等を引き続き注視しながら、今後も、必要な対応について検討することとする」と、
(検討する)ことを求めた上で、
会長といたしまして、承認扱いとさせていただきたく旨、決定させていただきましたので、ここにご報告させていただきます。
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引き続きまして、医療課長よりご説明をお願いいたします。
〇厚労省保険局医療課・井内努課長
はい、資料の「総-7-4」になります。
「新型コロナウイルス感染症に伴う医療保険制度の主な対応状況」というのをまとめております、ということで、ご報告でございます。
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この中で、前回、6月に一度ご報告をさせていただいたということですが、それ以降のものについて赤字になっております。
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ページ数でいきますと6ページ目のところで、(18)(19)ということ。
(18)は、ただいま会長のほうからお話があった件でございますし、(19)につきましては、14日の中医協のほうでご承認いただいたものでございます。
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また、7ページの下でございますけれども、これは7月22日に事務連絡を発出しておりますが、特殊なPCRということで、
いわゆる、いろんな検査ができるPCRができたということで、体外診断薬の承認を踏まえて出したものということで、今までの議論の集約というもので、ご参考までに付けさせていただいております。
以上でございます。
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〇小塩隆士会長(一橋大学経済研究所教授)
ありがとうございました。
それでは、ただいまの説明につきまして、何かご質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。ご質問等……。
幸野委員、お手が挙がっておりますので、お願いいたします。
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〇幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)
はい。前回の中医協で、一律に経過措置を延長するということに反対しておりまして、「会長預かり」になったということで、一言申し上げたいと思います。
延長については、9月30日の時点で個別に精査すべきというふうな主張を申し上げたんですが、「一律に延長する」という会長のご決定を尊重したいと思います。
経過措置を一律に延長したということについては非常に残念なんですが、これが妥当であったかどうかということについては、
先ほど議論いたしました基本問題小委の中の令和2年度調査の中でやはり明らかになってくるんじゃないかと思いますので、その結果を待って妥当性を判断したいというふうに思います。
以上です。
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〇小塩隆士会長(一橋大学経済研究所教授)
ありがとうございます。ほかにご意見、ご質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
はい。それでは、ほかにご質問等ないようですので、本件に係る質疑はこのあたりとしたいと思います。
本件の議題は以上です。なお、次回の日程につきましては、追って事務局より連絡いたしますので、よろしくお願いいたします。
それでは、本日の総会はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。
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