令和3年度の介護報酬改定に向けて厚生労働省が9月4日に開いた会議で「認知症への対応力強化」をめぐる議論があった。この中で、複数の委員が認知症関連の加算に言及し、取得率が低水準にとどまっている理由を求める声があった。厚労省の回答はなかったが、「研修がネックになっている」との指摘があった。【新井 裕充】
厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第184回会合をオンライン形式で開催し、前回に引き続き次期改定に向けた検討を進めた。
今回の主なテーマは「地域包括ケアシステムの推進」で、配布資料の構成は ①医療・介護の連携と看取りへの対応、②認知症への対応力強化、③地域の特性に応じたサービスの確保──の三本立てとなっている。
このうち②については、「認知症関連加算の算定状況や在り方について、どのような対応が考えられるか」「ケア手法の標準化を図るため、どのような具体的な取組が考えられるか」などの論点を挙げた。
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この論点について、発言の多くは「BPSDケアプログラム」に関する内容だったが、認知症関連の加算について「研修がネックになっている。もっと受講しやすい環境設定にできないか」との意見があった。
これに対し保険者の代表は「算定率が低い原因をよく分析した上で見直すべき」とした上で、「安易に要件を緩和するということではなく、本来の目的が達成されるような形で見直しをお願いしたい」と述べた。
詳しくは以下のとおり。
〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
(前略) 小泉委員、どうぞ。
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〇小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会理事)
(前略) 最後、認知症への対応力の強化ということでございますが、今後増加する認知症高齢者について在宅、事業所、施設における対応が急務であると思われます。
現段階では、進行を遅らせる薬、もしくは個別の症状に対しての薬しかなく、根本的な治療薬もないので、認知症高齢者に対するケアや環境整備による対応しかないとされております。
今回、48ページ以降に「BPSDケアプログラム」への取組が記載されています。
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認知症ケアについて一歩踏み込んだ形で検討いただけることは大変ありがたいことと思います。
53ページに、全国労施協の意見を記載していただきました。
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私どもも数年にわたって、どうすればBPSDを落ち着かせることができるのか調査を重ねてまいりましたが、ご利用者の生活背景を踏まえた関わりや、栄養、排泄ケア、減薬等による対応で状況はずいぶん落ち着くことがございます。
そのような現場での取組を評価していくという観点で、精神科医や協力医療機関等の医師による脳疾患の鑑別診断による連携や、認知症に関する情報の提供に関する取組を評価する。
また、「BPSDケアプログラム」を参考に、多職種連携による観察・評価、背景要因の分析、ケア計画への反映、実行というストラクチャー・プロセス評価を勘案する。
NPIの導入による状態像の変化や減薬調整によるアウトカム等を考慮する。
このような形で評価方法を組み入れてはいかがかと考えます。以上でございます。ありがとうございました。
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〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
はい。ありがとうございます。
(中略)
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〇井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)
(前略) 最後に、認知症加算の所で、ちょっと事務局に1点、次回以降で結構なんですけれども、
前回の改定でですね、認知症加算をいくつか付けてるわけですけど、なかなか取得率が低水準にとどまっているというデータもございましたので、
その理由につきましてですね、次回以降で結構でございますので、分かればお示しいただきたいというふうに思います。以上でございます。
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〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
じゃ、回答は次回にお願いすることにしましょう。
(中略)
東委員、お願いします。
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〇東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)
(前略) 次に、地域包括ケアシステムの推進について、1点だけ申し上げます。認知症についてでございます。67ページの論点、「認知症への対応力を向上するための取組の推進」について、ご意見を申し上げます。
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認知症に関しましては、今までもこの給付費分科会におきましても、私は何度かですね、もう少し認知症について、きちっと議論をする、それから対応をしていくということが必要ではないかっていうことを発言してまいりましたけれども、
今回、この論点のところ認知症対応力を向上させていくということ、それから、的確なアセスメント、それから定期的なアセスメント等を通じて、「科学的に効果が裏付けられた質の高い介護の実現」ということを書いていただきました。ありがとうございます。
まさしく今、認知症への対応力を問われている時代だと思いますが、まず、この認知症への対応をするときに、今、必要なものはやはり認知症の評価だと思います。
現在、今、国が使っております認知症「日常生活自立度」という評価指標はですね、これは認知症の方の能力を見たものではありません。
まさしく認知症の方がどれだけ迷惑をかけてるかという、迷惑度の指標でございますので、これは早急にですね、認知症の方の尊厳を考えた、きちっとした評価指標に変えていただくべきだと思います。
一方、長谷川のスコア、「HDS-R」というものも使われておりますけれども、これも単に記憶を見ているだけに過ぎないんですね。
やはり認知症の方をきちっと評価をするっていう意味では、コミュニケーション能力とか、オリエンテーション能力、それから意欲の指標であるバイタリティ・インデックスとか、そのような指標を用いて、認知症の方が今持っている残存能力をきちんと評価をした上で、的確な認知症への対応というものが必要になるんじゃないかと思っております。
そのような認知症の評価ということをきちんと今後、進めていっていただきたいと思います。以上でございます。
(中略)
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〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
(前略) 濵田委員、どうぞ。その後、5分ほど休憩を取ります。
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〇濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)
(前略) また、認知症への対応力強化につきましてでございますが、認知症の利用者のBPSDを緩和させる介護方法というのはですね、なかなか、これまで個別支援ではですね、経験のある介護職員の方のですね、何と言いますか、ベテランの技のようになっている事例はございますが、
やはり、このあたりを体系的にですね、確立していく必要があると考えられます。
このため、今般ご紹介いただいております、例えばこう、BPSDプログラムの普及などの、こういったことがですね、横展開が図れるようにですね、すること、かつですね、
例えばこの、データ化ができて、ビッグデータで標準的な手法がですね、解析し、開発されるようなことがですね、期待していければというふうに思っております。
こういった手法が、横展開が図れるようにすることがですね、有益ではないかというふうに考えておりますが、
ただ、それぞれ介護の現場で働く職員の皆さま方が意欲的に取り組めるような普及方策を考える必要があると考えております。
認知症の方のBPSDへの対応や、サービスの選択、ケア内容の検討につきましては、ケアマネジメントにおいても課題となることが非常に多いと考えております。
効果的なケア、支援方法が確立し、また、そういったサービスが拡充することは全体、ケアマネジメントを含め、ケア全体にも大きな影響を与えることになるのではないかというふうに思っております。
普及がなされるようにお願いするとともに、当協会におきましても必要な協力を行っていきたいと考えております。以上でございます。ありがとうございました。
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〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
ありがとうございました。
(中略)
鎌田委員、お願いします。
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〇鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)
(前略) 家族の会の昨年度のアンケート調査では、介護保険制度がどんどん複雑になり、地域包括支援センターやケアマネージャー、事業所からの説明を受けたが、難しい言葉が多くて理解ができなかったという声は、これまでに数多くあります。
見直しが行われた場合、地域支援事業の対象者を含め、利用者、家族など介護者に丁寧に説明することをまず、お願いをいたします。まず、全体としてはそれです。
1つ目は、認知症の加算です。「資料4」の44ページです。
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前回も申し上げましたが、どのサービスでも低い状況です。グループホームですら2割の取得状況です。
この取得が低い要因の調査をお願いしたところですが、事業所に聞きますと、「研修がネックになっている」とのことです。もっと受講をしやすい環境設定にできないのでしょうか。
例えば、集合研修の一部をe-ラーニングにするなどです。認知症ケアの質の向上を願う私たち家族の会は、切に希望いたします。
59ページで、認知症研修では「認知症介護実践者等養成事業実」で6時間の認知症介護基礎研修カリキュラムがありますが、これは認知症ケアの充実のため、例えば無資格で入職をしている人への必須研修など、介護事業所で働く人全てが受講をできるよう、また受講しやすいようにしていただきたいです。
それから、ページ47ページに、日常の症状でBPSDへのケアの新たな取組として、BPSDケアプログラムの概要があり、老健事業では効果があったと書いてあります。
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BPSDの症状があることで、介護サービスの利用が制限され、家族は苦労しています。
科学的で有効性のあるケアの方法があるのなら、そのケアプログラムが現場に普及していくよう、さらに進められるよう、家族本人は願います。
(中略)
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〇河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)
(前略) それから、「地域包括ケアシステムの推進」の関係でございますけれども、認知症への対応力の強化については、「認知症BPSDケアプログラム」ですか、この介入の効果がですね、実証されて、・・・認知症の取組を評価するということで、BPSDの改善という、設定すると、そういう形で検討すべきかなというふうに思います。
それから、認知症の加算についてはですね、算定率が低いものもあって、その原因をですね、よく分析した上で当然見直すべきだと思いますけれども、
ただ、算定率を上げるがためにですね、その、言葉は悪いですけれども、安易に要件を緩和するとか、いうことではなくてですね、
やはり本来の目的が達成されるような形でですね、見直しをお願いしたいと思います。
(中略)
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〇山本千恵参考人(神奈川県福祉子どもみらい局福祉部高齢福祉課長)
(前略) それから、認知症の対応力強化の関係、ちょっとBPSDケアの関係とはズレるかもしれないんですが、質の高いサービスを評価するためにはアウトカム評価として評価指標の検討が必要でございます。
その際には、認知症、認知機能の評価も取り入れていくことが必要ではないかと思います。
以前、提案しました「未病指標」は認知機能なども総合的に簡易に評価できる指標でございますので、認知症の進行を遅らせる質の高い介護の観点からも活用を検討いただきたいと思います。
(中略)
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〇堀田聰子委員(慶応義塾大大学院健康マネジメント研究科教授)
(前略) それから、資料4の地域包括ケアに関連しては、認知症への対応力向上の67ページの所について、1つ申し上げたいと思います。
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こちらに主に取り上げられているのが中重度の方への対応ということで、もちろん大変重要だと思っているんですけれども、
改めて、今、(論点)3つ目の「本人主体の介護」ということを考えたときに、軽度の方の社会参加であったりとか、
それから、早い段階で当事者と出会える、あるいは早い段階で支援者や、共に生活をつくっていくパートナーと出会えるといったようなこと。
さらに、そういった視点も諸々、いろんな研修が行われていますけれども、専門職向けの研修の中でも中重度対応ももちろん重要なんだけれども、
改めて、早いうちに人として出会って、共に体験したり作ったりするということをやっていけるような視点も盛り込んでいけるといいのではないか、というふうに思いました、以上です。
(中略)
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〇江澤和彦委員(日本医師会常任理事)
(前略) 続きまして、「資料4」にまいりますが、21ページでございます。
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こちらに中重度者を支える各種加算が列挙しておりますけれども、非常に、算定が一部、算定率が高いものから極めて低いものまで、いろいろ、ちりばめられていますが、
今一度、この算定要件とか報酬設定がどうであるのかを検討していただいて、なぜこういう状況になっているのかというのをぜひ検討していただきたいと思います。
(中略)
続きまして、「資料4」の67ページに「認知症への対応力を向上するための取組の推進」の論点がございますので、こちらにおきましても、ぜひ認知症の意思決定支援というものを十分現場で取り入れるように、よろしくお願いしたいと思います。
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その中で、今、厚生労働省において、医政局で人生の最終段階に関するガイドライン、それから、身寄りがない人のガイドライン、老健局において認知症の人のガイドライン、社会援護局において障害福祉サービス等の提供に関するガイドラインというものがあって、
今、ガイドラインがざっと4本ぐらいありますけれども、基本的に根本的な考え方は全く差異はないものでございますので、ぜひ、このあたりは一本化していただいて、それぞれの各論というか、バージョンに応じてやっていただければ現場も使いやすく、混乱が少ないんじゃないかなあというふうに思っております。
そしてあと、認知症のケアの質は、アセスメントが極めて重要であると認識しておりまして、特に現場のアセスメントにおいては人生歴を紐解いて、本人の気持ちを共有して受容と共感力を高め、なじみの人間関係や、なじみの環境づくりに力を注いで生活を構築し、支えていくことに主眼を置いております。
そして、いいケアをすればするほど、BPSDは減るということを私たちは体験をしているわけでございまして、
従いまして、良質なアセスメントをちゃんと実施できるように、推進するなり評価するということが必要ではないかなあと思っておりますので、そのあたりの「ケアの質」ということをまず検討していただきたいと思います。
特にBPSDが一番、対応に苦慮いたしますが、決して、BPSDは逆に、認知症は重度になると症状が減ってくるものでございまして、BPSDへの対応、
そして、認知症の進行度。中重度というのは記憶障害や見当識障害が極めて大きくなり、そして、あわせてADLが低下するということでございますので、そういった認知症の中重度をどう支えるのかという視点も重要でございます。
(以下略)
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