日本看護協会(日看協)常任理事の鎌田久美子氏は8月7日、令和3年度障害報酬改定に向けた厚生労働省の会議で「看護職員を1名配置できるだけの報酬にはなっていない」と述べ、基本報酬の引き上げなどを要望した。【新井 裕充】
鎌田氏は、医療的ケア児やその家族らを支援する必要性を訴えた上で「児童発達支援・放課後等デイサービスで看護職を配置した場合の基本単位数を引き上げること」などを提案した。
その理由について鎌田氏は「看多機で児童発達支援や放課後等デイサービスを併設する事業所に共生型サービスを実施しない理由をヒアリングしたところ、約3倍の報酬の差が障壁となっていた」と説明した。
質疑で、周産期医療に携わる医師は「共生型のサービスの場合だと、そうではない場合の3分の1ぐらいしか報酬が入らないということは今日、初めて知った」と明かし、「これはぜひ、なんとかアップしていただけなければいけない」と賛同した。
鎌田氏は「看護職員配置加算を算定しても看護職員を1名配置できるだけの報酬にはなっていない」と指摘。「児童発達支援において医療的ケア児は特に看護が必要であり、看護職員を配置するため、もともとの基本単位数を上げる必要があると思っている」と述べた。
詳しくは以下のとおり。
〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
それでは定刻になりましたので、ただいまから「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」の第12回会合を開催いたします。
(中略)
ヒアリングの進め方について確認させていただきます。ヒアリングは1団体ごとに行い、まず意見陳述を8分間、行っていただきます。
4分を経過した時点でベルを1回鳴らします。8分を経過した時点でベルを2回鳴らしますので、その場合は速やかに意見をまとめていただきますよう、お願いいたします。
意見陳述が終了しましたら、アドバイザーの皆さまからの質疑応答を行います。質疑応答の時間は7分間です。
(中略)
なお、ご説明につきましては、こちらから事前にお伝えさせていただいております次の4つの視点を踏まえて行っていただきたいと思います。
まず1つ目の視点は、「より質の高いサービスを提供していく上での課題及び対処方策・評価方法」です。
2つ目の視点は、「地域において、利用者が個々のニーズに応じたサービスの提供を受けられるようにするための、サービス提供体制の確保に向けた課題及び対処方策」です。
3つ目の視点は、「障害福祉サービス等に係る予算額が、障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の施行時から3倍以上に増加し、毎年10%弱の伸びを示している中で、持続可能な制度としていくための課題及び対処方策」です。
最後に4つ目の視点は、「新型コロナウイルス感染症による影響」でございます。
以上の4つの視点を踏まえまして、ご説明をお願いいたします。
それでは、冒頭のカメラ撮影はここまでとさせていただきます。また、各団体における冒頭の撮影につきましては、会議の進行に支障のない範囲でお願いいたします。
それでは早速ですが、関係団体の皆さまから順次、ご意見を賜りたいと思います。
(中略)
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続きまして、オンラインでご参加いただきます公益社団法人・日本看護協会より鎌田久美子様、よろしくお願いいたします。
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〇鎌田久美子氏(日本看護協会常任理事)
はい。日本看護協会常任理事の鎌田です。どうぞよろしくお願いいたします。
パワーポイントの2ページをご覧ください。本会、日本看護協会の概要をここに書いております。
本会は、保健師・助産師・看護師・准看護師の資格を持つ個人が自主的に加入する看護の職能団体でありまして、今、会員が76万人ということで、活動の基本理念をここに3点、書いておりますので、また、ご参照いただければというふうに思います。
次、3ページをお願いいたします。
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今回、令和3年度の障害福祉サービス等報酬改定に関する意見等につきまして3点、これから申し上げたいと思います。
まず概要ですが、まず1点目が「医療的ケア児やその家族を支えるサービスの充足」
2点目、「精神障害者を支える保健・医療・福祉の連携強化」
3点目、「災害や感染症拡大等の有事に備え、平時より医療・福祉両面の協力体制の整備」
この3点について、これから意見を述べたいと思います。
次、お願いいたします。詳細版です。
まず1点目の「医療的ケア児やその家族を支えるサービスの充足」。
この意見を行う背景でございますが、平成30年度の改定により、介護保険の看護小規模多機能型居宅介護、「看多機」と言いますが、看多機等が共生型サービスの指定を受けて障害福祉サービス等の実施が可能となりました。
看多機の共生型サービス参入が進めば医療的ケア児が退院後、また生涯を通じて総合的なサービスを継続して受けられます。
また、医療的ケア児は約2万人と推計されており、医療的ケア児が住み慣れた地域で支援を受けながら暮らすためには、看護職や介護職が配置された既存の施設を有効的に活用する必要があります。
しかし、看多機で児童発達支援や放課後等デイサービスを併設する事業所に共生型サービスを実施しない理由をヒアリングしたところ、約3倍の報酬の差といったことが障壁となっておりました。
また、児童発達支援や放課後等デイサービス事業所において、医療的ケア児の増加や人工呼吸器管理等の医療処置が増えております。
医療処置や身体の状況に応じた看護が必須となり、ハード面とソフト面の両方を整備する必要があると考えております。
今般の新型コロナウイルス感染症拡大により、通所ができなくなった医療的ケア児に対して、事業所が電話やオンラインによる支援ができるよう、報酬上の評価が必要と考えております。
そこで次、5ページをお願いいたします。
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意見でございますが、5点あります。
まず1点目。医療ニーズの対応可能な看多機が共生型サービスの指定を受けた場合の単価を拡充し、医療処置や身体の状況に応じた加算を設けること。
2点目。児童発達支援・放課後等デイサービスにおいて、看護職を配置した場合の基本単位数を引き上げること。
3点目。医療的ケア児は急な欠席となることが多いこと、また送迎やケアに人員が必要となることを鑑み、現行の「欠席加算」、また「送迎加算」を廃止し、月額の「医療的ケア児管理加算」、仮称ですが、それを新設すること。
4点目。医療的ケア児は医療処置や身体の状況により見守りや管理が異なるため、「医療的ケア児特別管理加算(仮称)」を新設すること。
5点目。新型コロナウイルス感染症拡大を鑑みて、電話やオンラインで支援した場合の報酬上の評価を設けること。
を意見として述べたいと思います。
次、お願いいたします。意見の2点目です。「精神障害者を支える保健・医療・福祉の連携強化」についてです。
背景といたしまして、第5期障害福祉計画に係る国の基本方針で、精神障害者にも対応した地域包括ケアシステムの構築が進められております。
医療機関から地域への退院が進められています。
しかし、精神障害者は退院後、住まいや就労の問題、人間関係の悩みや不安などから病状が悪化し、退院後の地域での生活日数は1年未満という現状があります。
精神障害者が地域で継続的に安心して暮らしていくためには、生活や心身の状況など、さまざまな悩みを気軽に相談できる場は重要であります。
相談支援事業所による生活上の相談支援に加え、病状の悪化を予防するために、医療者が病状等のアセスメントをする機会が必要であります。
そのためには、相談支援事業所が、医療や看護と連携しやすい体制整備が求めらます。
そこで意見・提案の内容です。
精神障害者の相談支援において、相談支援事業所と精神科医療機関や精神科訪問看護基本療養費を算定している訪問看護事業所が連携した際に、相談支援事業所の評価として「精神障害者支援医療連携加算」、仮称ですが、(精神障害者支援医療連携加算)を新設することを意見として述べたいと思います。
次に7ページをお願いいたします。ここは3点目になります。「感染症拡大や災害等の健康危機に備え、平時より保健・医療・福祉の協力体制の整備」についてです。
背景といたしまして、新型コロナウイルスの感染症拡大により、医療施設や介護施設だけでなく、障害支援施設においてもクラスターが発生しております。
今回のような感染症拡大や災害等の健康危機が発生した場合、地域の施設を利用する利用者の安全が担保できません。
また、発生後の一定期間、利用者やその家族への支援が途切れる可能性が高くなります。そのため、平時より感染管理体制を整備する必要があります。
地域の専門性の高い看護師が障害支援施設に出向き、感染管理の基礎知識の研修や各事業所の課題抽出、具体的な改善策の提示に至るまで一元的な支援を行うことにより、感染防止に寄与できると考えております。
また、新型コロナウイルス感染症拡大の際には、必要な医療物資が届かなかったという経緯があります。
今後、感染症拡大や災害等の健康危機が発生した際に、医療物資が必要な障害児者に確実に届くよう整備が求められます。
そこで意見です。
まず1点目。障害支援施設等が、感染管理の専門性が高い看護師との連携により感染予防の体制整備を行った場合に、「感染予防対策加算(仮称)」を新設すること。
2点目。有事の際、医療的な管理が必要な障害児者に、確実に医療物資が届くよう、物資が必要な障害児者の情報を自治体が一元化して把握し、保健・医療・福祉と情報を共有する体制を整備すること。
(①医療的ケア児やその家族を支えるサービスの充足、②精神障害者を支える保健・医療・福祉の連携強化、災害や感染症拡大等の有事に備え、③平時より医療・福祉両面の協力体制の整備)
この3点について今回、意見を述べたいと思います。
最後になりますが、この障害福祉サービス等報酬改定とは直接関係ありませんが、医療的ケア児を支える体制整備について申し添えたいと思っております。
まず1つ目ですが、看護職員の確保についてです。医療ニーズのある医療的ケア児とその家族が地域で暮らすためには、医療・福祉・子育て支援・保健・教育等の多岐にわたる分野が関係します。
医療的ケア児が生活する場で、どのような看護が必要かをそれぞれ整理し、学校や障害支援施設、事業所がそれぞれ看護職の人材確保策を推進するのみでなく、各事業所と補完して、まず関連省庁が連携して取り組んでいただきたいというふうに思います。
2つ目ですが、看護職員が安心して働くための環境整備についてです。学校や障害支援施設、事業所といった幅広い場所で今、看護職員は働いております。
現在、学校や障害支援施設、事業所等で人材確保と質の向上のため研修をそれぞれ行っていますけれども、関連省庁が連携し、横断的な研修体系等の、横断的な体系の研修をつくっていただきたいというふうに思っております。
以上、看護協会からの意見は終わります。
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〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
どうもありがとうございました。それでは、ご意見に対しまして、アドバイザーの皆さまから、ご意見、ご質問等があればお願いしたいと思います。
田村アドバイザー、お願いします。
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〇田村正徳アドバイザー(埼玉医科大学総合医療センター小児科学教室客員教授兼名誉教授)
ご丁寧なご説明、どうもありがとうございました。私の質問は、(1)の「医療的ケア児やその家族を支えるサービスの充足」というところに絞らせていただきたいんですけれども。
私自身、周産期センターで長らく働いておりまして、そのNICUで高度な医療的ケアを必要としたまま在宅に移行せざるを得ない、そういう患者さんをたくさん診てまいりました。
そういう方に対して、看多機が共生型のサービスをこれから積極的に考えていただけるということは非常にありがたいことなんですが、
その場合に共生型のサービスの場合だと、そうじゃない場合の3分の1ぐらいしか報酬が入らないということは今日、初めて知りまして、これはぜひ、なんとかアップしていただけなきゃいけないことかなというふうに考えております。
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それで私の質問は5ページの所にちょっと絞らせていただきますが、5ページの②で、「看護職を配置した場合の基本単位数を引き上げること」ということが書かれておりますけど、
これは具体的には、看護師の加配加算なんかのことを指すんじゃないかと思われるんですが、
具体的に、どの程度のアップを考えておられるのかということが、この②に対する質問でございます。
それから③に対して、医療的ケア児が急に、高度な医療的ケア児を持っているがゆえにキャンセルをするということはしばしばあることですし、
それから、ご家族のほうも「送迎をぜひしていただきたい」と希望されているということはよく聞くことなんですけど、
その「欠席加算」と「送迎加算」を廃止して、月額の「医療的ケア児管理加算」にするという、これから、あと出てくる団体の方もですね、この「欠席加算」と「送迎加算」をもっとアップすべきだということは、たくさんの団体の方がおっしゃっておられるんですけど、
むしろ、こちらを廃止して月額の「医療的ケア児管理加算」にするということのメリットと言いますか、どういうことで、こちらのほうに置き換えるということを考えておられるんでしょうか。
以上、2点について、お尋ねしたいと思います。
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〇鎌田久美子氏(日本看護協会常任理事)
ありがとうございます。基本単位数の加算でございますが、児童発達支援の基本単位数は今、利用定員に応じた単位を設定され、基本報酬に加えて児童指導員等加配加算や看護職員の加配加算が算定できるようになっております。
また、基本単位数とは別に、加算項目として欠席時対応加算や送迎加算、延長支援加算があります。
児童発達支援は、児童発達支援センターおよび重度、重症心身障害児を主としてみる場合に看護職員が人員配置基準として定められております。
しかし、看護職員配置加算を算定しても看護職員を1名配置できるだけの今、報酬にはなっておりません。
そこで、児童発達支援において医療的ケア児は特に看護が必要でありまして、看護職員を配置するため、もともとの基本単位数を上げる必要があるというふうに思っております。
また、放課後等デイサービスにおいても、基本単位数は利用定員に応じた退院を設定された基本報酬に加えて、児童同様に児童指導員等加配加算や看護職員加配加算が算定できます。これも基本単位数とは別に加算項目として欠席時加算等があります。
放課後等デイサービスは、看護職員の人員配置の基準はありません。しかし、けいれん等の急変時の対応等の医療処置や成長過程にある医療的ケア児の看護を行うためには看護職の配置が必要であるというふうに考えております。
そこで、看護職員の確保ができるよう基本単位数を引き上げる必要があるということで意見を述べさせていただきました。
また、2つ目の……。
よろしいですか?
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〇田村正徳アドバイザー(埼玉医科大学総合医療センター小児科学教室客員教授兼名誉教授)
どうぞ。
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〇鎌田久美子氏(日本看護協会常任理事)
はい。2つ目の質問については、現行の報酬体系は加算項目に欠席時加算、送迎加算、出来高報酬となっております。
医療的ケア児は成長の中で入退院を繰り返しておられまして、急な欠席となる場合が多く、ある事業所、ヒアリングをさせていただきましたが、ある事業所では多い児で1割程度の医療的ケア児が急な欠席となっているというふうに聞いております。
また、多くの医療的ケア児は送迎に人出を要します。特に、人工呼吸器を使用している医療的ケア児は増加しておりまして、送迎時の車両の振動により吸引を要したり、また、けいれん等の急変に対応したりする必要があります。
また、車椅子やストレッチャーや呼吸器や酸素といった荷物も多く、一度に複数名を同乗させるという送迎は非常に難しい現状にあります。
急な欠席でも職員は確保しておかなければならない、ということを考慮しますと、現在の出来高報酬ではなく、1カ月の包括報酬にしてはどうかというふうに考えまして、今回、医療的ケア児の管理加算、「仮称」として月額の報酬を求めたいというふうに思っております。
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〇田村正徳アドバイザー(埼玉医科大学総合医療センター小児科学教室客員教授兼名誉教授)
よろしいですか?
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〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
はい、田村アドバイザー。
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〇田村正徳アドバイザー(埼玉医科大学総合医療センター小児科学教室客員教授兼名誉教授)
その場合に、送迎加算なんですけど、ここで言う「医療的ケア児管理加算」を新設した場合には、その中の条件として、その患者さんを送迎するということを義務の中に入れるという、そういう理解でよろしいでしょうか?
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〇鎌田久美子氏(日本看護協会常任理事)
はい、そうです。
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〇田村正徳アドバイザー(埼玉医科大学総合医療センター小児科学教室客員教授兼名誉教授)
はい、分かりました。ありがとうございました。
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〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
ほかにいかがでしょうか。佐藤アドバイザー、お願いします。
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〇佐藤香アドバイザー(東京大学社会科学研究所社会調査・データアーカイブ研究センター教授)
はい。ご説明ありがとうございました。
非常に大まかな質問で失礼なんですけれども、福祉の現場に看護師さんが専門職としていらっしゃることはとても重要だと思うんですけれども、
今まで伺ったお話ですと、やはりそれに見合った、専門職に見合っただけの報酬を得るシステムになってない。
その中で、福祉の現場に看護師さんに居ていただくために報酬以外に考えられるインセンティブみたいなものはあるのでしょうか。
もし、無いようでしたら「報酬以外にはあり得ない」とおっしゃっていただいていいんですけれども、何かあるようでしたら教えていただければと思います。
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〇鎌田久美子氏(日本看護協会常任理事)
まずはやっぱり報酬を上げないと配置ができないというふうに思っておりまして、配置してなければ、他の医療機関等にいる看護師さん、訪問看護ステーション等との連携を強化しつつケアをしていくということが考えられるのかなあというふうに思います。
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〇佐藤香アドバイザー(東京大学社会科学研究所社会調査・データアーカイブ研究センター教授)
ありがとうございます。
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〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
それでは、お時間がまいりました。公益社団法人・日本看護協会の皆さま、どうもありがとうございました。
(以下略)
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