「介護保険のサービスが十分使えない」── 日本ALS協会、令和3年度障害報酬改定に向け意見

日本ALS協会_20200807障害福祉サービス等報酬検討チーム

 日本ALS協会常務理事で事務局長の岸川忠彦氏は8月7日、令和3年度障害報酬改定に向けた厚生労働省のヒアリングで「介護保険の介護サービスが十分使えないという問題がある」と述べ、重度訪問介護サービス提供時間の底上げや地域間格差の是正などを求めた。【新井 裕充】

 介護サービスの地域格差について岸川氏は「医療的ケアを担う介護事業所が少ない。僻地、離島などで利用できないなど、介護保険の不足がある」と指摘した。

 岸川氏はまた、「重度訪問介護サービス給付において、区市町村で公平に給付されていない大きな給付格差が見られる」とし、「これを改善していただきたい」と要望した。

 このほか、重度障害者が就労する際に重度訪問介護サービスが必要になることを挙げ、「就労による社会参加への支援をお願いしたい」と求めた。

 質疑で、自治体の担当者は「本来、労働者の働く環境の構築は雇用側が考えることで、働く人を雇い入れる事業者の責任という側面もあるのではないか」と指摘した。

 これに対し、日本ALS協会の嶋守恵之会長は「就労のヘルパーの付き添いは月60万になる。雇用主には無理」とコメントした。

 質疑ではこのほか、毎日新聞の客員編集委員から「京都の事件を見ても、やっぱり心の問題をどういうふうに支えていくのか今、突きつけられているような気がする。今回の事件で協会として何か議論していることはあるか」との質問があった。

 同協会の岸川氏は「今回の京都の事件はわれわれも非常にショックを受けている」とした上で、「亡くなられた方は『自分ができなくなった』という視点で自分の人生を考えられたのではないか。ただ、われわれは、一度全てを失った後、自分もまた別の人生を築き上げて世の中に貢献する活動をしている」と語った。

 詳しくは以下のとおり。

〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
 それでは定刻になりましたので、ただいまから「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」の第12回会合を開催いたします。

 (中略)

 ヒアリングの進め方について確認させていただきます。ヒアリングは1団体ごとに行い、まず意見陳述を8分間、行っていただきます。

 4分を経過した時点でベルを1回鳴らします。8分を経過した時点でベルを2回鳴らしますので、その場合は速やかに意見をまとめていただきますよう、お願いいたします。

 意見陳述が終了しましたら、アドバイザーの皆さまからの質疑応答を行います。質疑応答の時間は7分間です。

 (中略)

 なお、ご説明につきましては、こちらから事前にお伝えさせていただいております次の4つの視点を踏まえて行っていただきたいと思います。

 まず1つ目の視点は、「より質の高いサービスを提供していく上での課題及び対処方策・評価方法」です。

 2つ目の視点は、「地域において、利用者が個々のニーズに応じたサービスの提供を受けられるようにするための、サービス提供体制の確保に向けた課題及び対処方策」です。

 3つ目の視点は、「障害福祉サービス等に係る予算額が、障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の施行時から3倍以上に増加し、毎年10%弱の伸びを示している中で、持続可能な制度としていくための課題及び対処方策」です。

 最後に4つ目の視点は、「新型コロナウイルス感染症による影響」でございます。

 以上の4つの視点を踏まえまして、ご説明をお願いいたします。

 それでは、冒頭のカメラ撮影はここまでとさせていただきます。また、各団体における冒頭の撮影につきましては、会議の進行に支障のない範囲でお願いいたします。

 それでは早速ですが、関係団体の皆さまから順次、ご意見を賜りたいと思います。

 (中略)

 続きまして、オンラインおよび対面でご参加いただきます一般社団法人・日本ALS協会より嶋守恵之様、岸川忠彦様、よろしくお願いいたします。
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〇日本ALS協会・岸川忠彦氏(常務理事・事務局長)
 では、令和3年度の障害福祉サービス等報酬改定に関する意見ということで述べさせていただきます。会長・嶋守はオンラインのほうで参加させていただいております。私が代理で岸川と申します。よろしくお願いします。
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 では、まずですね、日本ALS協会の概要、紹介から入りたいと思います。

 設立年月日は昭和61年、1986年の4月20日になります。約33年から34年、設立からたっております。

 活動目的と主な活動内容については、ここに書いておりますように、ALSと闘い、ALS患者が人間としての尊厳を全うできる社会の実現を目指すとともに、

 ALSに関する社会啓発、ALSに関する原因究明と治療法の確立、そのための研究助成、患者の療養環境整備などを行うことによって、

 患者・家族および国民の医療および福祉の向上に寄与することを目的として、長年にわたって活動してきております。

 主な活動内容としては、ALSに関する正しい知識の普及と啓発事業、括弧内に少し詳細に書いております。

 次に、原因究明および治療法確立などの研究助成事業。基金を設立しまして、助成を行っております。

 患者・家族に対する療養支援事業。相談会、交流会などで直接の支援。それから今回のようなヒアリングなどを通して行政のほうに、行政の団体のほうにいろいろと要望を出すということをやっております。

 それから、調査研究事業。治療研究、それから患者の療養生活の実態調査などなどです。

 支部が全国に42支部あります。会員数は4,100名です。この中で、患者の会員というのが、患者・家族の会員がだいたい半分の2,000名になります。

 法人代表は、嶋守恵之になっております。
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 では、「(障害)福祉サービス等報酬改定に関する意見」を述べさせていただきます。6項目あります。

 まず、その1。たん吸引等の医療的ケアが可能な介護サービスの提供体制の拡充を求めたいと思います。

 ALSなどでは、病気進行により医療的ケアが必要な重度障害者になります。住み慣れた地域で在宅療養を続ける上で、医療支援と医療的ケアが可能な介護サポートが不可欠となります。

 家族や当事者から、「医療的ケアが可能な介護者を提供する介護事業所や介護者がいない」と、そういう問い合わせや相談が多いです。全国的に事業所と介護者不足が指摘されています。
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 最後のページにアンケート結果がありますので、それをご参照いただけたらと思います。

 介護報酬の面からですが、医療的ケアが可能な介護提供体制を拡充する総合的で大幅改善を求めたいと思います。

 以下、主なものですが、

 1番。重度訪問介護者の夜間、そして休日・祭日の割増加算の増額を希望します。

 それから2番。医療的ケア実施者の1日1人1,000円の増額をお願いしたいと思います。

 それから、医療的ケア提供者数による体制加算の大幅増額をお願いしたいと思います。

 それから、新人介護者研修における熟練者同行時時の報酬減額の見直しをお願いしたいと思います。

 それから、痰吸引などの研修、われわれのほうでは3号研修になりますけれども、これを拡充するための助成をお願いしたいと思います。

 その2です。
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 重度訪問介護サービス提供時間の底上げと地域間格差の是正を求めたいと思います。

 まず、介護保険の介護サービスが十分使えないという問題があります。医療的ケアを担う介護事業所が少ない。僻地、離島などで利用できない所があるという介護保険の不足というものがあります。

 従いまして、重度訪問介護のほうでもぜひ頑張っていただきたいという気持ちがございます。

 2番。重度訪問介護サービス給付において、区市町村で公平に給付されていない、大きな給付格差が見られます。これを改善していただきたいと思います。

 重度訪問介護サービス給付の制限理由として、中には財政事情、それから家族介護を求める、無理な家族介護を求めるなどの苦情が相談などで聞かれております。

 それから次に、入院中の重度訪問介護の利用についての意見です。

 入院中の重度訪問介護の利用が円滑に行われるよう、各施設への周知を求めたいと思います。

 2番。災害時の医療者不足時のヘルパーの医療的ケアの許容について、ご検討をお願いしたいと思います。

 就労における重度訪問介護サービスについてです。重度障害者には、就労において重度訪問介護サービスが必要になります。従って、就労による社会参加への支援をお願いしたいと思います。

 最後に、新型コロナ関連の要望です。
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 まず利用者の感染、それから濃厚接触、あるいはその疑いによる休業中のヘルパーの給与保障、これを事業所が行っておりますが、それに対する助成を検討いただけたらと思います。

 それから、消毒用アルコール類、精製水、防護服などの配布についてもご検討をお願いいたします。

 それから、ヘルパー1人当たり、今、20万円か、または5万円の給付があると思いますが、それを継続してほしいということです。

 それから、入院中のヘルパーなどの付き添い、見舞いの在り方に関する検討を要望します。例えば、個室料の助成などを検討していただきたいと思います。

 最後ですが、災害対策。

 台風、局地的なゲリラ豪雨などが最近目立っておりますので、水害・土砂崩れなどの危険地域からの事前避難策、それから物品購入などの助成をお願いしたいと思います。

 それから、バッテリー・栄養剤・衛生用品などの備蓄に対する助成。

 それから、避難時の移動介護にかかる2人以上の体制等を報酬として評価していただきたいと思います。

 最後ですが、医療的福祉避難所の確保。人工呼吸器利用者や医療的ケアのニーズのある方を対象とする避難所の確保を検討していただければと思います。以上です。
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〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
 はい、どうもありがとうございました。それでは、ご意見に対しましてアドバイザーの皆さまからご意見、ご質問等があればお願いいたします。

 小川アドバイザー、お願いします。
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〇小川正洋アドバイザー(柏市保健福祉部障害福祉課長)
 はい。ご説明ありがとうございます。

 そうしましたらですね、4ページの4番の「就労における重度訪問介護サービスの利用」について、ご質問させていただきます。
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 重度障害者の就労に重度訪問サービスが必要とのご意見でございますが、就労・雇用は障害があってもなくても可能な限り、その能力を活用する、その対価として賃金を支払うという、そういった意味からも、本来、労働者の働く環境の構築っていうのは雇用側が考えること、働く人を雇い入れる事業者の責任になるといった、そういった側面もあるのではないかと思います。

 そのことも認識した上でなんですが、就労側でも考える視点、積極的に障害者を受け入れた場合、例えば、対応した場合の事業者への補助など費用負担についての議論も必要ではないかとも思いますが、

 そういった視点について、ご見解等あれば、お聞かせください。よろしくお願いいたします。
.
〇日本ALS協会・岸川忠彦氏(常務理事・事務局長)
 ありがとうございます。もちろん、雇用側のほうにもしっかりとサポートを頂けないといけないと思いますが、

 特にALSの患者さん、呼吸器を付けたりしますと、実際、四肢は完全に動かない。

 あと、先ほど申しました喀痰吸引。いつ、吸引の状態になるかも分からない。そういう状態で、たぶん在宅の勤務になってリモートでやった時にですね、そういうサポートが、見守り的なサポートが必要になりますので、

 それに対してですね、就労時に、この重度訪問介護が利用できれば、ずいぶん社会参加、それからALSの当事者の方の気持ちですね、その辺も変わって、社会参加に伴ってそういう気持ちも変わってくるものと思いますので、ぜひとも実現していただきたいと思っております。

 もちろん、最初におっしゃいましたように、受け入れ側も大事ですけれども、それを働く側のほうにも少し拡充していただきたいと思います。
.
〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
 ほかにいかがでしょうか。野澤アドバイザー、お願いします。
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〇野澤和弘アドバイザー(スローコミュニケーション代表、植草学園大学教授、毎日新聞客員編集委員)
 はい。ご説明ありがとうございます。私もALSの当事者の方でですね、とっても魅力的な社会的活動をしている方、何人か知っていまして、

 ALSの方の、その社会に与える、特に若い人たちに与えるインパクトって言いますかね、とっても大事だと思っているんです。

 で、ただ、今、人工呼吸器を付ける方って3割ぐらいですか? 付けない方のほうが多いんですよね。

 で、やっぱりその、ヘルパーさんの確保っていうのがとても重要になってくると思うんですけれども。

 ヘルパーの単価だけじゃなくて、若い、なんか、ヘルパーさんの確保の方策っていうのは何か考えられていらっしゃること、ありますかね?
.
〇日本ALS協会・岸川忠彦氏(常務理事・事務局長)
 ヘルパーさんの確保、なかなか難しいところであります。

 やはり、1つは制度的にしっかりとヘルパーさんが安心して働けるような制度をつくっていただきたいというのが1つですけれども、

 当然ながら、ALS患者、当事者ですね、それから支援者としてもですね、ただ、四肢麻痺の方を、人工呼吸器の方をサポートするということが、

 まあ、何て言うんですかね、逆に自分の成長にもなるんだというような視点で、少しでも関心を持ってですね、われわれと一緒に働いて活動していただければと思っております。
.
〇野澤和弘アドバイザー(スローコミュニケーション代表、植草学園大学教授、毎日新聞客員編集委員)
 はい。あともう1つですね、まあ、医療、人工呼吸器とかによって、長く生きられるようになったし、介護の体制が整えば家族なしでも生活するようになった。

 ただ、京都の事件を見てもね、やっぱりその、心の問題をどういうふうに支えていくのかっていうのが今、突きつけられているような気がするんですね。

 で、これまで社会保障と言うと、現金の給付か医療や介護サービスの給付が中心でしたけど、なかなか、その心のケアのところまで手が伸ばせてないような気がするんですよね。

 このあたり、ちょうどこういうタイミングですので、何か新しい、そういう提案というか、あるといいなと思ってるんですが、

 協会として、今回の事件において何か考えられている、議論されていることって、ありませんか?
.
〇日本ALS協会・岸川忠彦氏(常務理事・事務局長)
 今回の京都の事件は非常に、われわれもショックを受けております。

 最初、まあ、事件自体もそうですし、ご本人の、そういう意思があったこと、それを東京と仙台の医師がいろいろと、

 何て言うんですかね、診療もせずに、お薬、薬をですね、入れて殺害してしまったこと、非常に残念だと思います。

 で、われわれとして、やれる事というのは、もちろん、たぶん……。

 亡くなられた方のブログとか少し読ませていただきましたけども、やはり、何て言うんですかね、どちらかと言うと、自分ができなくなったという視点で、自分の人生を考えられたのではないかなと思います。

 ただ、われわれの、例えば、会長、いろんなALSの患者さん、存じ上げてますが、一度全てを失ったあとで、さらにそのあとで、自分もまた別の人生を築き上げて、それから世の中に貢献するという活動をされてますので、

 そういう視点でですね、例えば、今後、不幸にして罹患される方々にですね、見るように、というようなアドバイスなどなどをしていけたらと思っております。
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〇野澤和弘アドバイザー(スローコミュニケーション代表、植草学園大学教授、毎日新聞客員編集委員)
 はい。ありがとうございます。
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〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
 はい。嶋守様、お願いします。
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〇日本ALS協会事務局
 聞こえますでしょうか。
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〇日本ALS協会・岸川忠彦氏(常務理事・事務局長)
 はい、大丈夫です。
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〇日本ALS協会事務局
 先ほどの就労の件に関して、嶋守のほうから「就労のヘルパーの付き添いは、月60万になります。雇用主には無理です」という話がありました。

 以上になります。
.
〇厚労省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課・竹内尚也課長
 はい。そのほか、いかがでしょうか。

 はい。それでは、一般社団法人・日本ALS協会の皆さま、どうもありがとうございました。

 (以下略)

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