厚生労働省保険局は3月26日、社会保障審議会(社保審)の医療保険部会(部会長=遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)で「今後の医薬品等の費用対効果評価の活用について」と題する資料を示し、委員の意見を聴いた。議論を踏まえ、元中医協会長である座長が私見を述べる場面もあった。(新井裕充)
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政府の改革工程表では、「新規医薬品や医療技術の保険収載等に際して、費用対効果や財政影響などの経済性評価や保険外併用療養の活用などを検討する」とし、「骨太の方針2020に向けて関係審議会等において検討」としている。
厚労省は資料の最終ページで論点を提示。「費用対効果評価の保険収載時の活用等も含めた実施範囲・規模の拡大については、現状や人材育成の状況や諸外国における取組も参考にしながら、これまでと同様に中医協で検討を継続していくこととしてはどうか」と提案した。
厚労省担当者の説明などは以下のとおり。
〇遠藤久夫部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
(前略) それでは議事に入らせていただきます。本日は「医療保険制度改革について」を議題といたします。
具体的には、
傷病手当金について
任意継続被保険者制度について
改革工程表2019における検討項目について
予防・健康づくりについて
の4つについて議論をしたいと思います。
(中略)
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次に、「改革工程表2019における検討項目について」を議題としたいと思います。事務局から関連の資料の説明をお願いいたします。
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〇厚労省保険局医療課・荻原和宏医療保険制度改革推進官
はい、それでは資料の3をご覧いただきたいと思います。今回、資料の3には3つ、検討項目を入れさせていただいております。
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1つ目が、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担の在り方について
2つ目が、医療費について保険給付率と患者負担率のバランス等の定期的に見える化等について
3つ目が、今後の医薬品等の費用対効果評価の活用について
ということでございます。順に、ご説明させていただきたいと思います。
(中略)
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続きまして3点目ですが、資料の25ページ以降でございます。「今後の医薬品等の費用対効果評価の活用について」でございます。
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26ページに改革工程表の記載がございまして、
新規医薬品や医療技術の保険収載等に際して、
費用対効果や財政影響などの経済性評価や保険外併用療養の活用などを検討する。
ということになってございます。
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27ページに費用対効果評価の活用に関する、これまで医療保険部会と、および中医協のほうでご議論いただいておりまして、そこでの主なご意見を載せてございます。
医療保険部会におきまして、そもそも費用対効果評価を保険収載の際に勘案するかどうかというのは、あくまで中医協での議論を尊重すべきであるといったご意見。
そして、有効性、安全性がきちんと確認された医療、医薬品で、必要かつ適切なものが保険適用されるということは医療の質向上に結びつくものなので、それを予算の制約ですとか、経済財政により保険適用外にするというのはいかがなものか、そういったご意見もございました。
またさらに、安全性・有効性が確認された医薬品は速やかに保険収載するという基本原則は維持すべきであるというご意見。
また、その下ですが、費用対効果の本格導入の議論を進めるとともに、高額薬剤など新たな課題が出たときに中医協で議論した上で薬価制度の中で緊急かつ個別の対応を図るべきといったようなご意見もありました。
その下が中医協での主なご意見ではございますが、やはり国民皆保険の下で、有効性・安全性が確認された医療であって、必要かつ適切なものは保険適用するということは基本的に対応している。その基本原則を変えるのは国民の理解を得られるかどうかというのが大きな課題ではないかといったものがございます。
また、評価に相当の期間を要するということが想定されることから、ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグが生じる可能性といったものも考えると、保険償還そのものの可否の判断に用いることは実効性に乏しいのではないか、
そういったご意見が、これまでのご議論いただいた中で挙がっているというふうに理解しております。
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28ページでございますが、費用対効果評価制度の概要について記載をしてございます。
中医協での議論を踏まえまして、制度そのものは昨年4月から運用を開始してございます。
基本的には市場規模が大きいものですとか、あとは著しく単価が高い医薬品・医療機器について評価の対象とするということになってございます。
ただし、治療方法が十分に存在しない希少疾患ですとか、小児のみに用いられるような品目は対象外ということで、してございます。
保険償還の可否の判断に用いるのではなくて、評価結果はいったん保険収載をした上で、その上で価格調整に用いるということにしてございます。
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そちら、29ページにも、その際、実際に、その制度導入の際の「今後の検討について」ということで、まとめられてございまして、
これまでの検討を踏まえて、4つ目の段落になりますが、効率的かつ透明性の高い仕組みとしていくために、諸外国における取組も参考にしながら選定基準の拡充、分析プロセス、総合的評価、価格調整方法および保険収載時の活用の在り方などについて検討していくということで、なってございます。
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30ページですが、こちらについては現行の制度としての対象の品目、6品目ほど対象となっているということでして、
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31ページに、実際の評価制度の体制と人材育成のイメージということになってございます。
それぞれ役割が分担されてございまして、制度企画・立案・執行・管理をする機関、それが厚生労働省という形になりますが、
中ほどに「調査・研究・分析・人材育成機関」として現行、国立保健医療科学院のほうで、6名の体制で担っていると。
人材育成および公的分析に関しては研究機関、大学のほうにですね、一部、そういった実施、機能を担っていただいて、実際、取組を進めているという状況かというふうに思っています。
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32ページに、各国におけます、それぞれの費用対効果評価の活用状況について一覧として載せてございます。
財源として「税方式」であるのか、「社会保険方式」であるのか。
また人員ですね。実際の体制ですとか、評価結果の活用方法、償還可否の決定および価格交渉に用いる、もしくは価格交渉に用いる、それぞれ各国における制度の概要について一覧記載させていただいてございます。
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その上で、33ページでございますが、現状といたしましては先ほど申し上げたように、昨年の4月から中医協での議論を踏まえまして、費用対効果評価制度、運用開始となってございます。
その評価の結果については、保険償還の可否の判断に用いるのではなく、いったん保険収載した上で価格の調整に用いるということとしてございます。
その上で今後、実施状況を踏まえて、組織体制の強化ですとか、課題を整理した上で、活用方法についての検討を継続していくということとされてございます。
実際、その人材の育成にあたりましては本年4月より人材育成プログラムが開始予定となってございます。
一方で、諸外国と比較をして、その評価における体制の規模ですとか、人材についてはいまだ不十分であるという課題がございます。
現在、評価の対象品目としては6品目が選定され、分析を実施しているという状況でございまして、
今後、論点として、そういった今後のですね、保険収載時の活用なども含めた実施範囲、規模の拡大について、
現状の人材育成の状況ですとか、
諸外国における取組を参考にしつつ、
これまでと同様に、中医協のほうで引き続き検討していくということとしてはどうか、という形でしております。
すいません、説明、一気にしてしまいましたが、以上でございます。
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〇遠藤久夫部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
はい、ありがとうございます。工程表の中の事柄3つなので、それぞれが全く関係がないわけなので、これ、1つずつやってったほうが良さそうな気がしますから、まず、これまで議論されてきました金融資産の扱い。これもずいぶんと部会で議論してきましたけれども、何かあれば、お聞きしたいと思います。
(中略)
それでは次の課題なんですが、この「医療費について保険給付率と患者負担率のバランス等の定期的に見える化等について」と、ちょっとよく、どういう議論をしていいのか、よく分からない所があるんですが、事務局原案も出てないんですけれども、何かコメントございますか。
(中略)
〇松原謙二委員(日本医師会副会長)
安全性・有効性が確認されている医薬品を速やかに保険収載すると。これが大前提で皆さんが納得してこの保険を維持してるわけです。
ただ、あまりにも高いようなもの。例えば、遺伝子治療、今回もございましたが、それについては皆さんで十分議論して、いくらにするかということを中医協で議論してるわけですし、
抗体製剤も、もし高くても、それが効いて命が永らえるという方がいらっしゃるんであれば、やはり、いったんは保険に入れた上で、そのあとの、どこに、その高い値段の問題があるのかを検討したから下げてるっていうのが中医協の仕事でありますので、
やはりこれは、大前提は崩すべくなく、金額については中医協にお任せして計算していただき、下げていただくようにするのが本来の国民皆保険制度を持っている、わが国のあるべき姿だと思いますので、よろしくお願いいたします。
(中略)
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〇遠藤久夫部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
それでは3番目の費用対効果につきまして、ご意見等、承りたいと思いますが、いかがでしょう。
(中略)
〇松原謙二委員(日本医師会副会長)
すいません、先ほどのは、ここで言うべきでした。
これを、費用対効果を検討するのはいいことなんですけれども、例えば、「この薬はこの人に」とか、「何人に」という割り当てで決めているのではなくて、われわれ医師は、現場でその患者さんを診てて、この人にこれが効くだろうと思って投薬したり治療したりするわけです。
例えば、それをしても2、3日か1週間ぐらいしか命が延びないようなもので、副作用があったら、それを使うことはありませんし、実際に使ってみてて、あまり効果がなければ、高い割に高価がないものはやめようと、私たちも考えますので、一方的に割り当てをしてるわけではないですから、
これをその、この社会保障審議会でいろんな議論をして「これは駄目だ」とかではなくて、実際に中医協で、どれぐらい使ってて、どれぐらいの費用がかかってるということで本来は考えるべきだと思いますので、先ほどの意見を申し上げたところであります。
もう1点は、遺伝子治療をしまして遺伝子治療の結果、その人が元気になると。しかし、ものすごい金額だけど、「その人の生産性はそんな高くないだろう」ということで考えて、「じゃあ、この人は使うべきではない」というような議論にならないようにしなければなりません。
つまり、遺伝子の問題だったら誰がその遺伝子を持つかは、これは神様しか分からないことで、その人が苦しんでるんであれば、国民みんなで、その、「救おう」「助けよう」ということでこの皆保険制度が起きてるわけですので、
そこのところを忘れて、「お金はかかって、結果が悪いから駄目だ」っていうような議論に結びつくようなことは賛成ではありませんし、
その人が一部、その生産性に等しくない費用がかかったら個人的な負担を求めるっていうような考え方に結びつくようなことは決してしてはいけないと思いますので、よろしくお願いいたします。以上です。
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〇遠藤久夫部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
ありがとうございます。だいたい、よろしゅうございますか。
実は一言、私もお話しさせていただきたいんですけども、中医協の会長を辞めた最後の時のアナウンスで、費用対効果が重要だっていう話をさせていただきました。
そのことがその後の議論にどう反映されたかは知りませんけれども。
そういう議論が少しありました。それはなぜかと言うと、やはり高額な薬剤が、今になってみれば大した高額ではないんですけれども、そのあと、相当高額が出てまいりましたけど、その当時もかなり高額なものが出てきた。
それを、そうすると、それまでの、その類似薬効比較方式とか原価計算方式で行うと、例えば抗がん剤などでもですね、少ししか効果、延命効果があまり違っていなくても相当高額なものが新規性が高いということで原価計算方式が高く算定されるとかですね、いろいろなことが出てきたような印象がありました。
なので、少し、その効果の比較をする形で価格の補正はできないかという、そのレベルで私は申し上げたつもりなんですけれども、その後の議論はですね、まあ、学者の先生方がずっとレクチャーをする形で進めましたんで、(費用対効果評価とは)そもそも何かっていう形で。
特に、イギリスのNICEを中心としたような制度の議論も進みました。実は、それを進めますとね、そもそもが、その、それまでの日本の薬価基準制度と、その、効果、費用対効果の考え方っていうのは基本的なコンセプトが違いますので、
どういうふうにそれを融合していくのかっていうところがなかなか見えない。端で見てまして。私は傍聴してましたけれども、延々とそれが続いていったという感じで。
ま、最終的には、現行の、その、加算部分について費用対効果を入れようというような形で抑えられてきているわけなので、まあ、それはある程度、落ち着いてきたなあという感じはします。
従いましてですね、この費用対効果の議論するときには、その、全く新しいものを作れば作るほどですね、現行の制度とのハレーションを起こしますから、それをどういうふうにハーモライズさせていくかってところが一番重要なんです。
そこがあればですね、どの程度のことをやればいいかってことは自ずと出てくる話なんですね。
ですから、そういうところで、たぶん議論を進めていくべきだと思うし、たぶん、中医協はそんなことは分かっているので、そういう方向の議論になっていくんではないかなというふうに思って、
ちょっとそれは部会長の立場というよりも、これまでちょっと絡んできた立場でお話しさせていただきました。個人的な見解だと思ってください。
ほかに何かございますか。よろしゅうございますか。ということで、一番、議論の蓄積が進んでいるのは中医協ですので、基本的には中医協の議論を見守るというようなことで、
適宜、必要な情報があればここでも開示していただくという、こういう扱いでよろしゅうございますね。はい、ありがとうございます。
それでは、この件につきましては、以上とさせていただきたいと思います。
(後略)