筑波大学医学医療系教授の田宮菜奈子氏は7月3日、長期入院の患者が多い療養病棟をテーマにした厚生労働省の会議で「医療区分3であった方はかなりの方が死亡されていることで、やはり看取りの場所になっているという感じもする」と述べた。さらに、中心静脈栄養の患者が半数以上を占めていることに触れ、「医療で、どこまでニーズに対応すべきかを含めて議論が必要」と問題提起。慢性期病院の団体幹部と激しい口論になる場面があった。【新井裕充】
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厚労省は同日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の2019年度第4回会合を開き、18年度調査の結果を分析した資料を提示。療養病棟入院基本料について医療区分や在宅復帰機能などに関する2つの論点を挙げ、委員の意見を求めた。
質疑で田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)は、医療療養病床の死亡退院率の高さに言及し、「看取りの場所」との認識を示した。調査によると、重度の患者が多い「医療区分3」での死亡退院は約8割(79.2%)となっている。
この発言に対し、慢性期病院の団体幹部が反論。「急性期からどんどん下りてきた重度の方を受け入れているので、治療した結果、やむを得ず亡くなっている方が圧倒的に多い。治療の先に亡くなっている現状」と理解を求めた。
議論の模様は以下のとおり。
[厚労省保険局医療課・木下栄作課長補佐]
事務局でございます。お手元の資料、「診調組 入ー1」をお開きください。まず、こちらの資料におきまして、療養病棟入院基本料の
・施設の現況
・入院患者の現況(医療区分等)
・在宅復帰機能強化加算等
・その他
2つ目としまして、障害者施設等入院基本料につきまして、
先般の(平成30年度)入院(医療等の)調査等の概況からまとめた結果につきましてご報告いたします。
(中略)
今、ご説明してまいりましたそれぞれの現状と課題というのを64枚目にまとめておりまして、論点、2つ挙げさせていただいております。
医療区分につきましては、各項目の該当割合や、医療区分のこれまでの見直しによる変化等を踏まえて、さらなる分析を進めてはどうか。2つ目といたしまして、療養病棟の在宅の復帰機能について、復帰率の分布、患者の在院日数等を踏まえ、どのように考えるか、
ということを論点として挙げさせていただいております。説明は以上になります。
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[尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)]
はい、ありがとうございました。それでは、ただいまの説明につきまして、一括してご議論いただきたいと思います。ご質問、ご意見等がございましたら、お願いいたします。
(中略)
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
今の議論(介護医療院への転換促進)とも少し関係しますが、私から見て、気になっていることをお伝えさせていただきますと、まず、26ページ(療養病棟入院料1 を届出ている病棟の入院患者の医療区分の推移)の図を見ますと、
医療区分3であった方は、かなりの方が死亡されていることで、やはり、看取りの場所になっているという感じもいたしますが、
今のところは特養とか老健とか、看取り加算とかあるかと思うんですけど、療養型、もともと医療の場であるので、そのへんが、看取りがこれだけ多い場合に、看取りの体制というのもどうなのかなあというのが、少し疑問に思っています。
私は老健で、看取り(介護)加算を取ってたりしますと、医師が密に行ったり、みんながチームで関わったりとかいうことが、看取りのケースにはできていますので、その点が気になりました。
関連して、もう1つなんですが、30ページ(医療区分3の項目別の該当患者割合)の図を見ますと、区分3の場合の中心静脈栄養が非常に多いですよね。
これ、必要な方がやってるんだろうと思うんですけど、私の臨床的に聞いている、気になっていたことは、
人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)やらエンド・オブ・ライフで家族と相談したり、本人の意向で、「もう胃瘻は入れない、口から物が食べられなくなったら、もう入れない」と決めてる方が、
何か、「IVH(中心静脈栄養)だったら」ということで、またそこで胃瘻を始めてるケースを見て、「それはどうなんだろう」ということを現場の方に投げられたことがあるんですね。
「食べられないときは胃瘻を入れない」って決めていても、IVHだったら穴を開けないから抵抗がないとか、そういうこともあるのかもしれませんし、
ご本人とご家族が選んだことであるならば、それに沿うのも1つだとは思うのですが、この非常に中心静脈栄養が多いということについては、やはりさっきの看取りの体制とか含めて、医療で、どこまで医療ニーズに対応するべきかを含めて、ちょっと議論が必要かなと。
例えば、中心静脈栄養の患者さんを、もう少しモニターしていくとか、必要かなと思いました。
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[尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)]
ありがとうございます。では、池端委員どうぞ。
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[池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)]
今の点について、ちょっと私なりの考えをお話ししたいと思います。
まず、確かに医療療養病床の死亡退院は多くなっていて、前々回の調査で4割だった。今回5割ということです。
多いのは事実ですけども、じゃあ、医療療養病床が看取りの場かと言うと、決してそうではないです。
これは、あくまでも重度の方が、どんどん急性期から下りてきて、それを受けているので、治療した中で、やむを得ず亡くなっている方が圧倒的に多いんですね。
だから、看取りという言い方、私は非常に、ちょっと違和感を感じます。
もちろん、看取りという態勢になる方もいらっしゃいますけども、ほとんどの方が、やっぱり治療の段階の先に亡くなっているということが、今の医療療養病床の2・3、8割以上という病棟の現状だということを、ぜひご理解いただきたいと思うんですね。
そして、あともう1つ、中心静脈栄養ですけど、これ、ほとんどが持ち込みです。療養病床でずっと診て、中心静脈を入れていることは少ないです。
現状はもう、急性期で、その選別が行われて、「胃瘻等は嫌だ。胃瘻を入れない」と言う。で、胃瘻が入った方は老健等々には行けるんですけども、(胃瘻を)入れない。
いろんな、胃を切除したとか、いろんな、胃瘻を入れてても誤嚥したり嘔吐したりしてIVHになってしまう方々の行き場所がなくなる。そして療養へ来てる方が、ここ1、2年はすごく増えてます。だから、そういう意味で、
「中心静脈栄養が5割以上いるっておかしいじゃない」かと、たぶんそういう議論になると思っていたんですけども、決してそうではない。そうではないとは言い切れませんけども、現状は決してそうではない部分、かなりあるんだということもご認識いただいて議論していただかないと、ものすごく変なことになってしまいます。
もし、これが、「療養病床で中心静脈栄養だけを入れて医療区分3はけしからんじゃないか」とやったら、おそらくその患者、行き場所がなくなります、患者さん。ぜひ、そういうことでご理解いただければ。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
すいません、ちょっと。
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[尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)]
はい、田宮委員。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
本当にセンシティブなところですから、全員がそうだと決して申し上げてるわけではなくて、医療ニーズが最後まである方がたくさんいらして、そういう方の行き場所がないというのは、本当にそのとおりだと思うんですね。
ただ、やはり、その中では、ある程度もう、何て言うかな、家族と議論の上で、看取りという言葉の議論はとてもあると思いますけれども、
この点で、あとは、よりカンファタブルな治療ではなくて、QOLを目指すほうに転換する場合もありますので、そういう方は、今度は介護医療院がそれを担うとか、そういうことになるかもしれませんが、
そういう見直しっていうのは、ある程度、全員がそうだと決して申し上げてるわけではなくて、一部ですね。
また、本当にこれも一部だと思いますが、病院に行くために、やっぱり中心静脈を入れると(病院に)入れるなんていうような、これは決してあってはいけないことだと思うんですけど、
そういうことも聞いたことがあるので、「全体が」と申し上げているわけではなくて、そういうところにも目を配って、こういう方は介護のほうのニーズがもっとあるときに判断をするとか、が必要かなと思って申し上げた次第です。
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[尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)]
池端委員。
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[池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)]
ちょっと私、納得できないんですけども、ここの議論というのは、自分がただ聞いたことがあるだけで、それを言ってしまうと、マスコミの方がそういうふうに捉えてしまうと、非常にやっぱり不本意なんです。
それは、ここはあくまでもデータを分析する場ですから、自分の感覚だけでモノを言ってしまっているのは、非常にやっぱりまずいと思います。そこは訂正していただかないと、私は納得できません。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
分かりました。感覚・・・、
ただ、
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[池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)]
1例、2例で、
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
1例ではありません。
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[池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)]
じゃあ、何例中、何例あったんですか!
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
そこまで、すみません、私もデータ、取らなければいけないなと思っているところです。
なので、そういうデータも含めて、胃瘻と、それから中心静脈栄養のバランスとか、どういうふうに移ってきたとか、そういうところを本当に見たほうがいいのではないかなと申し上げていて、そういう人が全部だとは決して・・・、
申し訳ありません。感覚で申し上げたというのは謝りますが、ただ、そういうところにも目を向けて見ていく必要があるだろうとは思っています。
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[池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)]
私も、それがゼロとは言いません。
そういうことがある可能性は多少あるかもしれませんけれども、全体的に見るとこういうことだということを理解していただきたいと思うのと、
それから、今、療養病床の現場でも、人生会議も含めて、この議論はかなり行っています。特に在宅復帰加算を取ればこれ、要件化されてるわけですので、協会も含めて、そういう議論は、つまり療養病床の中でも、かなりされてるので。
ただし、これは人生会議、ご存じのとおり、1回結論を出したら終わりじゃなくて、本当にその場になったときに、じゃあどうしますかというと、やっぱり何もしないのは心配だから、やっぱりじゃあ、こういう方法だったら入れてほしいということで、入れてしまうこともあります。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
そうですね。
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[池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)]
それが人生会議です。いったん結論を出して、もう何もしないと決めたのに、またしたのはけしからんという、それは違うと思います。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
すみません、一言だけ。
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[尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)]
どうぞ、田宮委員。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
本当におっしゃるとおりで、変わってもいい、変わるのは当然でありますので、
特に胃ろうの場合は、「胃には穴を開けるということは非常に抵抗があるけれどもIVHなら」というふうになる方が多いという表れかなあとも思っております。
なので、そのへんの現状を、もう少し光を当ててもいいのかなということです。
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[池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)]
経営でそれに誘導してるっていうことだけ訂正いただかないと、納得いきません。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
経営で誘導というふうに申し上げて(なくて)、「行く所がないので仕方なく」という例を聞いています。
それだけで役割を果たしていらっしゃるということだと思うんですよ。行く所がない方に。はい。
ただ、少し見直しが必要かなと思っているところです。
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[尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)]
まあ、デリケートな問題ですし、この分科会では、できるだけデータに基づいた議論を行いたいというふうに思います。
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[田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)]
もちろん。
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[尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)]
神野委員、どうぞ。
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[神野正博委員(全日本病院協会副会長)]
また蒸し返すつもりじゃなくて、あれなんですけども、
まず、さっきの看取りの場の話で、介護医療院も実は看取り加算、ないんですよね。
介護と医療と一緒になってる介護医療院のはずなんですけども、これはここじゃなくて老健局の話だと思うんですけども、
結構、看取りやってらっしゃる介護医療院も出てきてると思いますけども、いわゆる加算がないというのは、とても残念に思います。
この中心静脈の話と、それから最初にお話があった転換の話で、今の話の感想も含めてですけども、
ただ、1つ言えるのは、31ページに中心静脈、ここの3カ月というのは、同じ人がずっと3カ月行ってるのか、1回途中で切れてるのか、それは分かりませんよ、データとしては。
ただ、3カ月以上、中心静脈が入っている。そして中心静脈が入っている人が半分以上いるということに関しては、ちょっとこれ、ここの話というよりは、感染の観点からすると、長期の中心静脈は、ちょっと、カテーテル感染上もまずいんじゃないですかと。
ですので、できるだけ、こういう方に関しては経管栄養、経腸栄養に持っていったほうが感染の観点からでは、いいのではないかなというふうに思います。
そういった意味では、人生会議とかACPの中で、今、非常に価値観として、胃瘻とか経管栄養について、ものすごいネガティブな価値観がまん延しておりますけども、
栄養面だけからいえば、中心静脈よりも絶対に経管・経腸栄養のほうがいいに決まってるんで、そのへんのところ、ちょっと人生会議でなんとかしてほしいなというのが思いですけど、これはここ(分科会の議論)じゃないと思います。ごめんなさい。
(後略)