救急患者らを受け入れる急性期病院の経営に影響する「看護必要度」の基準が再び議論になっている。厚生労働省は6月19日に開いた会議で、約2週間前に示した調査結果を早くも修正した。厚労省の担当者は「今回、別途分析する過程で分かった。事務局(保険局医療課)で、そこに気づくのがちょっと遅れたことはお詫びしたい」と陳謝した。会議の委員は「今後、こういうことがないように注意していただきたい」とコメントしたが、それ以上は追及しなかった。【新井裕充】
問題となっているのは、入院している重症患者の割合を判断するために用いられている「重症度、医療・看護必要度」の基準。2008年度に初めて導入されてから試行錯誤を経て、つぎはぎだらけになっている。前回の2018年度改定では、この基準がⅠとⅡに分けられた。そのほか、もろもろの変更があった。
その背景にあるのは医療費の抑制。看護職員の配置が手厚いことなどを理由に入院料が高い「7対1」(患者7人に対して看護職員1人)のベッド数を減らそうと、前回改定では保険料を支払う立場の委員がこの基準値の引上げを要求して会議は何度も紛糾した。最終的には、大学教授らによる「公益裁定」という手続きで決着した。
その結果、7対1に相当する病床について、Ⅰの基準は該当患者の割合30%、Ⅱは25%となった。現在、ⅠとⅡの間に5ポイントの差が付けられている。
以下、やや長文になるが、経緯を振り返る。ここで伝えたいことは、いったん出した資料にケチが付いたので、「再集計」して封印したというストーリーである。会議は、6月7日 → 12日 → 19日と進む。
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Ⅰは35.2%、Ⅱは26.7%で、両者に8.5ポイントの開き(7日の入院分科会)
前回改定では、看護必要度ⅠとⅡの間に5ポイントの差が付けられるなど、いくつかの見直しがあった。こうした基準の設定が果たして妥当だったのか。
厚労省は6月7日、中医協の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九大名誉教授)で、入院医療に関する調査結果を示した。
それは、7対1病床が大幅に削減される気配が感じられない結果だった。改定前の7対1のうち、改定後の「急性期一般入院料1」にそのままスライドしたのが96.5%と多数を占めた。その1つ下のランクである「同入院料2」に転落したのは2.6%で、「同入院料3」は0.5%だった。
7対1削減のカギを握るとみられた「看護必要度」基準の引上げは空振りに終わった。7対1に相当する「急性期一般入院料1」では、看護必要度Ⅰが35.2%、Ⅱは26.7%となっており、Ⅰでは30%を大きくクリアしていた。
しかも、ⅠとⅡの間には8.5ポイントの開きがあった。これは、当初の想定である「5ポイント」を大きく上回る結果だった。7日の分科会では、この点が大きな議論になった。ⅠとⅡのうち、重症患者の割合が高く出るほうの基準を恣意的に選んでいるのではないかとの疑念も浮上した。
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「基準自体がおかしいんじゃないか」と支払側(12日の基本問題小委員会)
厚労省は12日、親会議である中医協・基本問題小委員会(委員長=田辺国昭・東大大学院教授)に、こうした調査結果を報告した。
これに対し、保険者を代表する立場の支払側委員は「次期診療報酬改定で何をやらなきゃいけないかが、はっきり見えてきた」と切り出し、「この30%が妥当であったのか」と追及した。
支払側委員は「実際、ふたを開けてみると5ポイントではなくて8.5ポイント。基準自体がおかしいんじゃないか」と語気を強め、「この3.5ポイントの違いが何なのかを、ぜひ入院分科会で検討していただきたい」と求めた。
当初予定の「5ポイント」から突き出てしまった3.5ポイントをいかに縮めるか。厚労省の“手腕”に委ねられた。
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「ⅠとⅡの差は、だいたい4ポイントぐらい」と厚労省担当者(19日の入院分科会)
その1週間後。舞台は再び入院分科会に戻った。
19日に開かれた入院分科会で、厚労省は再集計したデータを提示。「Ⅰの平均が35.4%、Ⅱは31.3%という結果が得られた。ⅠとⅡの差については『おおむね5ポイントぐらいの差』という見込みを立てていたが、今回見ていただくと分かるように、入院料1・2・4がだいたい4ポイントぐらい。7は5ポイントぐらいの差で、おおむね、このような差が見て取れる」と説明。委員はこれに納得した。
支払側から激しく批判された会議から、わずか1週間。厚労省は「再集計」という得意技で、「3.5ポイント」を消し去った。
会議終了後、「中医協の基本問題小委員会にこの結果をフィードバックするのか」と厚労省担当者に尋ねたところ、苦々しい表情を浮かべながら「その都度、その都度の報告はしない。いつ報告するかはまだ決めていない」と答えた。
再集計に関する厚労省担当者の説明は、次ページを参照 .